作業療法で解明! 統合失調症で意欲が低下するのはなぜ?

作業療法で解明! 統合失調症で意欲が低下するのはなぜ?

体と心に向き合う作業療法

作業療法は病気やけがなどで生活の動作が難しくなっている人を対象に、心と体の働きを回復し、それを維持するために行います。「その人らしく生活できる」ことをめざして、起き上がる、歩くといった基本動作を応用して「買い物に行く」などの生活に根差した動作を獲得するために、一人一人にあった支援をしていきます。例えば人は、左の肘が90度まで曲げられなくなると、食事のときに食器が持てなくなり、顔を洗うことも難しくなります。そのせいでやる気が失われることもあるため、体だけでなく心のケアも欠かせません。

心の病気で体が動かせなくなる

統合失調症は100人に1人がなると言われる身近な精神疾患で、感情が高ぶる、逆に意欲が低下するなどの症状が見られます。精神疾患がある人の心身の機能を回復するために行われるのが、「精神障害作業療法」です。統合失調症の患者は手先の不器用な人が多く、背中がうまく洗えない人、ひげのそり残しに気づかない人もいます。しかし、関節や動作には問題がありません。そこで、「経験をもとに動作をイメージする」「セルフモニタリング(自己確認)する」といった認知機能に着目した研究が行われました。

主体的な生活を取り戻すには?

作業療法士が両手でキツネなどの形を作り、それを患者がまねる模倣学習には、運動イメージとセルフモニタリングの要素が含まれます。統合失調症の人とそうでない人の模倣能力を、認知機能と課題遂行能力の観点で比較したところ、統合失調症の患者のほうが模倣を苦手としていること、認知機能に障害が起きていることがわかりました。課題遂行能力では、「課題に挑戦する気持ち」や「課題を遂行する自主性」などが低いほど、模倣能力も低いという相関が見られました。統合失調症の患者は、取り組むべきことのイメージが持てないために、主体的な生活ができないのかもしれません。作業療法では動作をわかりやすく見せるなど、指導の仕方を工夫することが大切なのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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弘前大学 医学部 保健学科 作業療法学専攻 准教授 田中 真 先生

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メッセージ

人の生活に根差している作業療法は、その人に興味を持って対話していく力が求められます。特に心の問題は外からは見えないため、相手の気持ちに耳を傾ける必要があります。作業療法士に関心を抱いているなら、同世代の人だけでなく、いろいろな世代の人とコミュニケーションを取る機会を持ってほしいです。作業療法では、生活を遊びと仕事と日常生活の3つに分類します。その人らしい生活を送るためには、遊びもとても重要な時間です。遊びを通して、いろいろな人と関わってください。

先生への質問

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