食品の品質を維持する持続可能な冷凍システムを考える

一般的な冷蔵庫と産業用冷凍機の違い
食品は冷凍によって温度を低く保つことで、微生物による腐敗を防ぐことができます。しかし食品の中の水分が氷結すると細胞は壊れ、解凍したときにドリップとして流出してしまいます。従って水分の多い野菜や果物は冷凍に不向きなのです。一般的な家庭用冷蔵庫の冷凍庫は温度の下降が緩やかな「緩慢凍結」のため、氷結しやすいマイナス1度から5度の温度帯にいる時間も長く、大きな氷結ができます。一気にマイナス数十度まで下げる「急速凍結」が可能な産業用冷凍機であればより品質を維持できますが、エネルギーも大量に必要とします。
チルドによる航空輸送のデメリット
一方、「チルド」は大量の氷などで食品を取り囲み、氷結の一歩手前の低温状態に抑えた状態です。冷凍よりも賞味期限が短いため、肉や魚はこの方法で航空輸送されているのですが、航空輸送は大量の二酸化炭素を排出し、箱詰めに使う発泡スチロールも環境に負荷を与えます。急速凍結による冷凍保存であれば賞味期限が長くなるため、船舶輸送を使うことで二酸化炭素を60%削減でき、色や味もほとんど変わりません。しかし、運ぶのに時間がかかることや、輸送中の温度管理の難しさがネックです。
品質維持のために大事なこと
冷凍機内の温度管理は意外に難しく、家庭用冷蔵庫の場合、平均してプラスマイナス3度程度の温度変化が起きています。温度が変わると、一度溶けかかった水分が再び結晶化する「オストヴァルト熟成」により氷結晶が大きくなり、食品の品質も落ちます。そこで、AIを使って冷凍機内部の温度管理と食品の品質管理ができないかといったことが考えられています。また、解凍方法も品質を左右します。解凍は凍結と逆にゆっくり行うことが望ましく、家庭であれば冷蔵庫内で解凍する方法が良いとされています。また、氷水に漬けるのも一つの手段です。水は空気より熱伝導率が高いことから、食品に効率よく熱を伝えて、よりスピーディに解凍することができるのです。
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先生情報 / 大学情報

東京海洋大学 海洋生命科学部 食品生産科学 助教 レド マーク アンソニー ボリヴァ 先生
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