明治期の日本から考える、政治を見るための適切な距離

明治期の政治の試行錯誤
現代日本の政治の仕組み、例えば憲法や三権分立、議会政治や政党政治などは、19世紀後半の明治維新を機に、西欧に範を求めて作られたものです。しかし、それらがすぐに社会に定着したわけではありません。特に明治前中期にあたる19世紀の終盤は、大きく変化していく社会に戸惑いながらも、人々によって試行錯誤が繰り返され、徐々に現代政治の枠組みができあがっていったのです。
政党政治が地方に持ち込まれたプロセス
地方政治の基礎的な枠組みもこの当時に形成されました。現代は政党ごとに政策を打ち出し、選挙を戦い、議会を運営していく「政党政治」が一般的ですが、その原型を作った人物の一人が星亨です。憲政党(立憲政友会の前身)という国政を担う大政党の指導者であった星は、地方政治がはたす役割の重要性に着目し、党の力を使って東京市(当時)を牛耳ろうとします。政党に属さない区会議員たちは「星による政党政治が東京の政治を腐敗させる」と反発し、大きな衝突が起こります。政治的には勝利した星ですが、それから間もなく、元区会議員の手によって命を奪われてしまいます。
過去から学ぶ、政治への向き合い方
多くの血が流れた明治維新の余波を感じさせる血なまぐさい事件ですが、その背景に目を凝らしてみると、政治的な信条の違いだけでなく、明治維新や産業革命によって生じた社会の大きな変化や、そこに暮らす人々の期待や不満、怒りなど、さまざまな要素が絡んでいることがわかります。
現代を生きる私たちも、国政や地方政治について考えるとき、感情を大きくかき乱されたり、反対に複雑すぎて関心がもてなかったりすることがあります。今から百数十年前の東京、あるいはその他の地方において、政治の仕組みがイチから作られていくプロセスを知ることは重要です。それは、政治にほどほどの熱さと冷静さをもって向き合い、有権者としてベストな判断を探るために必要な、「適切な距離を取って政治を眺める」姿勢を身につけることにもつながるのです。
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