田んぼで暮らす生き物を守る 農業の効率化との両立をめざして

田んぼで暮らす生き物を守る 農業の効率化との両立をめざして

田んぼは魚の子育ての場

田んぼは稲を育てるだけの場所ではなく、ドジョウやメダカなどの小さな魚にとって重要な子育ての場でもあります。川では水の流れがあるため卵が流されてしまいますが、田んぼの静かな水の中では安全に繁殖できるのです。しかし、作業の効率化のために水路のコンクリート化や深掘が進むことで、魚が田んぼに入れなくなってきました。そこで考案されたのが「水田魚道」です。水路から田んぼへ魚がのぼりやすい階段状の構造を設けることで、田んぼを繁殖の場として再び活用できるようになりました。今では全国各地に広がっています。

複雑な生態系と保全の挑戦

農村生態工学の研究では、生物間の複雑な関係を理解した上で保全策を考える必要があります。例えば、絶滅危惧種となっているタナゴという魚は二枚貝に卵を産み、その二枚貝の幼生は別の種類の魚に寄生して成長します。つまり、タナゴは、二枚貝と二枚貝が寄生する魚が、同所に生息していなければ生き残れないのです。そこで、こうした複雑な関係を踏まえながら、ため池の造成やコンクリート水路内への泥だめ設置など、さまざまな保全策が提案され、農家の協力を得て実践されています。

農村の生態系保全の新たな課題

せっかく田んぼに魚がのぼれるようになり、ため池や水路で生きものを保全できるようになっても、外来種が捕食してしまうという問題が発生しています。中でも、生物多様性に大きな影響を与えているのがアメリカザリガニです。完全に駆除するのは難しいため、「低密度管理」によって被害を抑える方向で研究が進められています。例えば、わなから逃げにくいようにアタッチメントを工夫したり、メスのザリガニが産卵時期に巣に潜る習性を利用して、効率的な捕獲時期を特定したりといったことです。
農村地域の問題として、農家の減少や高齢化により、深刻な人手不足があります。農業のさらなる効率化と生物多様性保全の両立をめざして、地域の人々の理解と協力を得ながら研究が進められています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

岩手県立大学 総合政策学部  准教授 鈴木 正貴 先生

岩手県立大学 総合政策学部 准教授 鈴木 正貴 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

農村生態工学、農業土木学、保全生態学

先生が目指すSDGs

メッセージ

農村生態工学でどんなに素晴らしい生き物の保全方法を考えても、実際にその土地で農業をしている人たちに理解してもらえなければ実現できません。生き物の生態を調べ、「こうすれば守れる」という方法が見つかったら、次にそれを地域の人たちに伝えて理解してもらうというチャレンジが待っています。人と話すのが苦手でも、生き物を守るためには必要なことです。自分の研究結果を持って農家の方に話しかけてみる、そんなチャレンジ精神を持った人に、ぜひこの分野に来てほしいです。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

岩手県立大学に関心を持ったあなたは

大学は「知識」を得る場であるだけではなく、「人生の目的」を考える場であり、これからの人生で自分は何をなすべきかを探求する場でもあります。人はそれぞれ固有の素質と能力を持っています。それをいかに見出し、育成していくかが教育の最大課題であると考えています。この大学での貴重な学習期間に、自己の能力と個性を伸ばし、適性を見出すことに努めてください。本学の教職員は、全力を挙げてこれに協力します。