日本とアラブ世界 文化的接点のない地域が相互理解するには?

文化的接点のない地域の理解
日本とアラブ世界のように、文化的な接点が少ない地域同士が対話するには、どのようなアプローチが必要でしょうか。一般的な比較研究では共通点を見つけることが前提となりますが、接点のない地域では、その地域を個別に深く理解して、その地域独自の視点で物事をとらえることが大切です。
その理解の手がかりとなるものの一つが言葉です。言葉はコミュニケーションツールだと思うかもしれませんが、言語文化学では言葉を「文化を形作り、社会のさまざまな要素を反映するもの」と考えます。食べ物や美術といった目に見える文化とは違い、思想、宗教、価値観といった見えない深層文化を理解するには、言葉の分析が重要な手がかりとなります。例えば、SNSの何気ない表現に注目してひも解いてみれば、その地域の人々の考え方や社会情勢を読み解くこともできるのです。
言語を通して社会を可視化する
アラブ世界を含むイスラム文化圏は世界人口の約25%を占める巨大なものであり、かつて文明の経由地・接点としての役割を果たした地域でもあります。しかし、日本ではこの地域に対する理解が十分ではありません。
言語文化学の手法は、こうした理解の壁を乗り越えるための有効な手段を提供してくれます。例えばアラブの人と対話するとき、言葉に触れたとき、翻訳して言葉の意味を理解したところで終わらずに、現地で使われている言葉や表現を分析すると 、日本人には見えにくい文化的背景や社会の仕組みを理解することにつながります。言語文化学には社会を可視化する力があり、表面には表れない社会の動きや人々の心理まで読み取ることができるのです。
多文化共生社会の実現に向けて
現在の日本は多文化共生社会実現の途上にあり、さまざまな課題が生じています。その中で言語文化学は重要な役割を果たします。文化的接点のない地域同士であっても、言語という共通の要素を通じてまず相手を正しく知ることから始め、対話の道筋を見いだすことができるのです。
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