スマホの情報をすべて見られる? 捜査とプライバシーの境界線

捜査とプライバシー
警察や検察による捜査活動の中には、被疑者の家に立ち入るいわゆる「家宅捜索」や、持ち物を取り上げる「証拠品の差押さえ」といったものがあります。これらは原則、裁判所の令状がなければ実施できません。そして、差押さえの対象は原則として証拠になるもので、それ以外は押収できません。書類や物品であればその線引きは容易ですが、パソコンやスマートフォンでは困難です。特に、あらゆるデータをインターネット上のサーバーに保存する「クラウドサービス」の登場以降、事件に無関係なプライバシーも、証拠とともに押収されるリスクが高まっています。
GPS捜査はやって良い?
刑事事件の被疑者の車にGPS装置を取り付けて行動や居場所を追跡する手法は、刑事ドラマでよく見られますが、実際に許されるのでしょうか。日本の刑事訴訟法にはGPSに関する条文がないため、答えはその「解釈」によって変わります。大きな争点は、GPSの設置が令状不要の「任意捜査」なのか、令状が必要な「強制捜査」なのかという点です。アメリカでは同様のケースで、令状が必要だと示されました。日本でも最高裁が同様の判断を示し、所在に関する情報は個人のプライバシーに関わるもので、GPSは被疑者の所在を「継続的・網羅的に把握できる」ため、強制捜査に当たると結論づけました。
人権と捜査のせめぎ合い
私たちには憲法で基本的人権が保障されており、不当に行動を制限されたり、プライバシーを侵害されたりしない権利を持っています。刑事事件の被疑者であっても、裁判で罪を犯したと認定されるまでは、同じでなければなりません。しかし、上で示したように「人権の尊重」と「捜査の必要性」はしばしば衝突し、近年の科学・情報技術の急速な発展が事態をさらに複雑化させています。既存の条文をあてはめるだけでは解決の糸口は見えません。より「適正な規律」を社会に示すためには、現実社会の変化を踏まえて、本質を見極めつつ柔軟な解釈を加えながら考えていく姿勢が重要なのです。
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岩手県立大学 総合政策学部 講師 伊藤 徳子 先生
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