シロアリから「性とは何か」「社会とは何か」を問う

シロアリから「性とは何か」「社会とは何か」を問う

シロアリの社会にある規律

シロアリは、女王や王、兵隊、ワーカーという異なる役割や形態の個体が集まって暮らす社会性昆虫です。生殖能力があるのは女王と王のみで、兵隊は仲間を守り、ワーカーは卵や幼虫の世話などを担当します。女王の寿命はとても長く、50年生きるものもいます。
王や女王の食べ物は「ロイヤルフード」です。ワーカーの体内で作り出されたロイヤルフードは、口移しで王や女王に与えられます。ワーカーがロイヤルフードを食べて女王になろうとすると、体から発する匂いが変化し、周りに気づかれて殺されてしまいます。シロアリの社会には規律があり、自分だけ得をしようとする個体は罰せられてしまうのです。

生物学は「エピジェネティクス中心」へ

生物学は「DNA中心」から「エピジェネティクス中心」へと変化してきました。エピジェネティクスとは、DNAを発現させるかどうかを決める仕組みのことです。シロアリは親から同じDNAを受け継いでも、DNAの発現の違いによってワーカーになるか、王や女王になるかが決まります。近年の研究により、王が年を重ねると、精子のDNAのメチル化(化学修飾)が進むことがわかってきました。そのため、若い王の子は王や女王になりやすい一方で、高齢の王の子の多くはワーカーになります。エピジェネティックな因子が運命を左右しているのです。

シロアリを通して知る性の意味

ヤマトシロアリの巣には複数の女王がいて、それぞれが卵を産みます。女王と王のDNAを受け継ぐ受精卵から生まれた子はワーカーや兵隊になりますが、単為生殖で生まれたクローンは新たな女王になります。クローン女王は王のDNAを受け継いでいないため、近親交配とならずに受精卵を産むことができるのです。ワーカーや兵隊のように外部と接触する役割の個体は、受精によって遺伝的な多様性を持つことが求められますが、巣の奥で守られる女王はクローンでも問題ありません。シロアリ社会の仕組みから、性が果たす役割や意味が見えてきます。

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京都大学 農学部 資源生物科学科 昆虫生態学分野 教授 松浦 健二 先生

京都大学 農学部 資源生物科学科 昆虫生態学分野 教授 松浦 健二 先生

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昆虫学、生態学、動物行動学、進化生態学

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今は情報にあふれていて、検索すればすぐに答えがわかります。しかし、研究はやってみなければわからず、だから面白いのです。実験前に頭で考えて立てた仮説が当たる確率は半分以下ですが、仮説通りにいかないほど面白くなります。データと向き合い、自分の目で見て自分の頭で考え続けるうちに、誰も見つけられなかったことを発見できるからです。大切なのは、自然と謙虚に向き合う姿勢です。その姿勢で集めた自分だけの「ゼロ次情報」の積み重ねが、面白い発見につながるのだと思っています。

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