800℃が300℃に! セラミックスの常識を変える新合成法

800℃が300℃に! セラミックスの常識を変える新合成法

水蒸気で蒸して無機材料を作る

セラミックスの生成は、粉を混ぜて高温で焼成するという方法が主流でした。ほかには、溶媒に溶かしてゲル化させてから焼成したり、機械的エネルギーを与えて合成するという方法があります。そこに最近、「水蒸気で蒸す」という新しいアプローチが開発されました。「ハイドロフラックス法」と呼ばれるこの合成法の特長は、ほかの合成法に比べて低温・短時間で合成できることです。例えば、LiCoO2(コバルト酸リチウム)は通常800~1,000℃という高温で長時間焼く必要がありますが、この方法ならわずか300℃・30分という低温・短時間で合成できることが確かめられています。

原理はシンプル

ハイドロフラックス法の原理は、溶融した塩に金属酸化物を溶かして結晶を成長させるというもので、小学校の理科で習う「濃い食塩水から大きな結晶を作る実験」と同じシンプルな仕組みなのです。さらに、反応自体は室温でも進むことが判明しており、加湿器で水蒸気圧を精密に制御することで反応をより効果的に進められることもわかってきました。多くの金属元素に応用できる可能性も示され、新しいセラミックス合成の汎用的な手法として注目されています。

基礎研究が開く応用の可能性

この技術の具体的な応用例の一つが、次世代の蓄電池です。「全固体電池」は安全性などの面で優れている一方で、電極と固体電解質の界面の接触面が小さく効率が悪いという問題がありました。高温で焼成して密着させれば接触面は増えますが、不要な反応が生じてしまうというジレンマにぶつかります。電池の正極材料となるLiCoO2を低温で合成できるようになることで、高性能な全固体電池実現への道が開かれたのです。低温・短時間での合成により、製造プロセスにおけるエネルギー消費や二酸化炭素排出を抑えられ、環境面、効率面の双方で大きなメリットが得られます。
そのほかにも、高温では燃えてしまう有機材料とセラミックスを組み合わせた複合材料の合成など、幅広い応用が期待されています。

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先生情報 / 大学情報

北海道大学 理学研究院  教授 松井 雅樹 先生

北海道大学 理学研究院 教授 松井 雅樹 先生

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無機化学、固体化学、電気化学

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メッセージ

高校までの勉強は、問いに対して正しい解答をする能力が評価される世界です。一方、大学の研究には正解がありません。予想と異なる実験結果が出た場合も、単なる失敗や不正解とはならず、自分だけが知っている新発見につながることもあります。これは、登山に例えると、誰も登ったことのない山や登山ルートにチャレンジする冒険といえます。大学にはそんなワクワクするような知的冒険が待っています。

先生への質問

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北海道大学に関心を持ったあなたは

北海道大学は、学士号を授与する日本最初の大学である札幌農学校として1876年に創設されました。初代教頭のクラーク博士が札幌を去る際に学生に残した、「Boys, be ambitious!」は、日本の若者によく知られた言葉で本学のモットーでもあります。また、140余年の歴史の中で教育研究の理念として、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」を掲げ、現在、国際的な教育研究の拠点を目指して教職員・学生が一丸となって努力しています。