細胞の情報伝達をオフにする酵素「ホスファターゼ」をがん治療に活用

細胞を活性化・抑制する酵素
私たちの体内では、細胞の中でさまざまな情報が伝えられています。その仕組みの一つが、タンパク質のリン酸化と脱リン酸化です。タンパク質にリン酸基がつくことをリン酸化、外れることを脱リン酸化といいます。リン酸化を行う酵素を「キナーゼ」、脱リン酸化を行う酵素を「ホスファターゼ」と呼び、これらはタンパク質の働きを切り替えるスイッチのような役割を持っています。
このスイッチが適切に働くことで、細胞の増殖、免疫応答、DNA修復などが細かく調節されています。一方で、そのバランスが崩れると、細胞が増えすぎたり、異常な細胞が生き残ったりして、がんなどの病気につながることがあります。
リン酸化バランスが崩れると
本来、健康な細胞では、リン酸化と脱リン酸化のバランスが適切に保たれています。しかし、このバランスが崩れると、細胞の働きに異常が生じることがあります。たとえば、ホスファターゼの一つであるPPM1Dの働きが低下すると、免疫細胞の機能や炎症応答に影響する可能性があります。一方で、PPM1Dが過剰に働くと、がん抑制タンパク質p53の働きが弱まり、異常な細胞が生き残りやすくなることがあります。そこで私たちは、脱リン酸化を担うホスファターゼに注目し、その働きが細胞の機能や病気にどのように関わるのかを明らかにする基礎研究を進めています。
がん治療に期待がかかる新薬を開発
通常は「p53」と呼ばれるタンパク質が細胞のがん化を抑制していますが、「PPM1D」など特定のホスファターゼが過剰になると、p53の働きが弱まり、がん化が進んでしまいます。PPM1D阻害剤の研究では、新薬のタネとなるリード化合物が発見されており、PPM1Dだけをピンポイントで抑える精度、副作用を抑制する精度を高める方法など、実用化に向けた開発が進められています。将来的には、グリオーマなど治療が難しいがんに対する新しい治療法の開発にもつながる可能性があります。
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