講義No.16176 法学

保育園児の声は騒音? 裁判が示す「受忍限度」とは

保育園児の声は騒音? 裁判が示す「受忍限度」とは

住民が保育所を提訴

とある市で、保育園児の声が騒音だと近隣住民が訴え、裁判になったケースがありました。保育所は大勢の乳幼児が過ごす場所なので、子どもたちが走り回ったり話をしたりと、生活音を出すことは避けられません。そこで、保育園側は開園にあたり、近隣住民らとの話し合いを重ね、園の負担で一部住民宅の窓を二重サッシに取り換える合意を結び、後に原告となった住民の自宅との境界線上には、高さ3メートルの防音壁を設置するなどの騒音対策を講じる努力をしました。しかし、納得しないこの住民1名が保育所を相手取って民事裁判を起こしたのです。原告は、子どもたちの発する声などで精神的苦痛を受けたとして、慰謝料100万円と、さらなる防音設備の設置を求めました。

我慢できる範囲とは? ~受忍限度~

判決では、保育園からの騒音が、我慢できる「受忍限度」内であるかどうか検討され、原告の請求が棄却されました。裁判所は、原告が感じている精神的・心理的不快と、発生している騒音のレベル、園側が苦情を受けて設計変更や高さ3メートルの防音壁設置など誠実に対策を尽くしたプロセス、保育園の公共性などを総合的に天秤にかけました。結果、園側は最大限の配慮をしており受忍限度内であるとして請求を棄却しました。園児が声を出して自由に遊ぶことは、健全な発育に不可欠で、本事件では違法な騒音ではないということになります。

権利が衝突する時の調整は

騒音の被害が裁判で認めてもらいにくい、というわけではありません。この裁判の本質は、原告の「自宅で心穏やかに過ごしたい」という原告の権利と、保育園側の「子どもたちを健やかに育てる」という社会的役割・子どもたちの日常生活との衝突にあります。このように権利同士がぶつかった時、双方の権利内容を比較し、時には、社会全体の利益も考えてどこで折り合いをつけるかという、裁判における高度な権利調整の視点が不可欠となります。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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専修大学 法学部 法律学科 准教授 須加 憲子 先生

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メッセージ

私は、高校の公民の授業で「法律は人を助け、生活を豊かにするもの」と教わったことがきっかけで法律に興味を持ち、法学部に入学しました。そして大学で出会った民法の学習を法律サークルや専門ゼミで深めるうちに、研究の道を志すようになりました。民法は、人々の「権利の衝突」をどう解決するか考える学問です。日常のささいなトラブルから社会問題まで、民法はみんなが納得できる「対話のルール」を教えてくれます。ぜひ一緒に、社会を豊かにする法律の面白さを学んでみませんか。

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