うまく「サボる」コンピュータが世界を変える

うまく「サボる」コンピュータが世界を変える

コンピュータは完璧ではない

コンピュータは正確に計算する機械だと考えられがちですが、実際には限られた情報で数値を表しているため、計算にはわずかな誤差が常に含まれています。コンピュータで得られるのは、あくまで近似値なのです。また、同じメーカーの同じ型番のCPUでも、実際に動かしてみると個体ごとに電力効率や特性にわずかな違いが生じることがあります。半導体の製造プロセスが極めて微細になったことで、そのわずかな差が全体の動作に影響します。

「力の入れどころ」を調整

こうした「不完全さ」や「ばらつき」を前提に、より効率よく計算を行う方法の研究が進められています。その一つが「近似計算」という考え方です。従来は「すべての計算をできるだけ精密に行う」ことが重視されてきたのに対し、「重要な部分は丁寧に、そうでない部分は大まかに」処理することで、全体の速度を上げつつ消費電力を抑えるアプローチです。しかし、それで答えを間違えてしまうと大変なことになります。答えの正しさを維持しながら、性能を最大限引き出す「力の入れどころ」を考えなくてはなりません。
加えて、CPUを速くあるいはゆっくり動かすことによって、性能と消費電力のバランスを調整する方法もあります。

コンピュータ自ら最適化する未来

こうした工夫を人の手で適用するのは大変なため、コンピュータ自身が状況に応じ、最適な方法を自動的に選ぶ仕組みの構築が目標とされています。これにより、無駄な電力消費を抑えて処理を早く行うのです。さらに、複数のコンピュータが連携して動く際には、それぞれの進み具合に応じて計算の精度を調整し、全体の効率を高める試みも進められています。こうした研究は、スマートフォンから大規模な計算まで、幅広い分野での活用が期待されます。
近似計算は、結果が確率的に得られる量子コンピュータのシミュレーションとも相性が良いとも考えられます。コンピュータが自ら最適な「サボり方」を判断しながら進化し続ける未来は、意外に近いところまで来ているかもしれません。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

明治学院大学 情報数理学部 情報数理学科 教授 和田 康孝 先生

明治学院大学 情報数理学部 情報数理学科 教授 和田 康孝 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

高性能計算、計算機システム

メッセージ

大学では、高校までの学びとは少し違う姿勢が求められます。自分から積極的に機会をつかみにいき、「能動的に学ぶ」ことがとても大切です。外からどう見えるかを過度に気にする必要はありません。心の持ちようとして、自ら何かを取りにいく姿勢を忘れないでください。また、コンピュータの仕組みは難しそうに見えますが、しょせんは人間が作ったもので、一つずつ落ち着いて見ていけば、必ず理解できます。そして、研究も仕事も一人では完結しません。人と話すことを怖がらず、失敗を恐れず、たくさん挑戦してください。

明治学院大学に関心を持ったあなたは

150年以上もの歴史を持つ明治学院大学。本学の起源は、1863年にアメリカ人宣教医師ヘボン博士が開設した英学塾から始まります。無償で診察を行いながら、英和・和英辞典を編纂し、ヘボン式ローマ字でも有名なヘボン博士。その信念「Do for Others」を教育理念とし、本学ではグローバル社会に対応できる学術知識と教養を培い、他者とともに道を切り開ける人材を育成しています。