絵本を通して子どもの心を考える臨床心理学

弟、妹が生まれるという出来事
岩崎ちひろの絵本『あかちゃんの くるひ』には、弟が生まれてお姉ちゃんになる女の子の複雑な心の揺れが描かれています。母親が弟を連れて家に帰る日、「わたしの のった うばぐるま」「ねた べっど」という、かつて自分が使っていたベビー用品が用意されています。女の子は自分のぬいぐるみもあげたいと思う一方で、さみしさや戸惑いも感じているようです。赤ちゃんの帽子を被ってみたり、段ボールに入って指をしゃぶったりします。
弟や妹が生まれると、子どもはそれまで独占していた親の関心をきょうだいと分けあうことになります。兄、姉という新しい役割を獲得すると同時に、持っていたものを手放すという心の作業を子どもなりにしているのです。
「喪の作業」の大切さ
何かを失いながら成長するということを、人は繰り返します。失うものを悼みながら手放していくことを臨床心理学では「喪の作業」といいます。これは、喪失の上に存在する喜びや豊かさに出会うための重要なプロセスです。『あかちゃんの くるひ』の最後で、女の子がベビーカーを押しています。赤ちゃんの足元、ちょうど自分との間に大事なぬいぐるみが乗っています。持っているものを分かち合うのは、人生の大きな課題です。思春期に秘密を共有するように、人は成長する中で分かち合う喜びも発見していきます。
絵本と臨床心理学の共通点
絵本には「出会いの一回性」があり、読み手と聞き手の関係性によって、同じ絵本でも感じ取る内容が変わってきます。子どものころ読んだ絵本に成長してから出会い直し、新しい発見をすることもあるでしょう。臨床心理学でも、カウンセラーとクライエントが対話する時間を、一回限りの出会いととらえて大切にします。同じ悩みでも別の日に会って話すと、あるいは担当者が代わると、同じ話の展開にはなりません。正解を一方的に伝えるのではなく、関係性の中で紡がれていくものがあるという点が、絵本と臨床心理学の興味深い共通点です。
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