日本のヒップホップは独自進化 文化の変容を追う社会学

葛藤を抱えていた日本のヒップホップ
アメリカ生まれのヒップホップは、もともと貧困や人種差別の中から生まれた文化です。ラップの歌詞には社会への怒りや不満が強く刻まれ、厳しい現実を表現しました。しかし、日本で最初にヒップホップが流行したとき、必ずしも貧困や差別という背景はありませんでした。日本でいち早くヒップホップに引きつけられた若者たちの中には、都市部で育った、教養や学歴のある人たちも少なくありませんでした。日本でアメリカの表現をそのまままねても違和感が生じ、かといって平和な日常をそのまま歌ってもラップとしての魅力は弱くなります。葛藤をくぐり抜けながら、日本語ラップは独自の表現を形づくってきました。このように、外来の文化がその土地に合わせて変化する過程を、社会学では「ローカル化」と呼びます。
「スポ根」のイメージはなぜ?
日本で文化として変化してきたのは、ヒップホップだけではありません。スポーツのイメージも社会によってつくられます。ボクシングに「貧しいボクサーが努力で成り上がるスポーツ」という印象を持つ人は少なくないでしょう。しかし、日本でボクシングが広まった大正末期から昭和初期には、六大学の学生などエリート層の競技者も多かったのです。「泥臭いスポ根」のイメージが根強い背景には、その後の人気漫画が広めたイメージの影響があります。現実をそのまま見ているつもりでも、メディアなどでつくられたイメージで文化を理解しているのです。
「自分の選択」を疑う
社会学の目を日常に向けると、身近なところにも問いはあります。社会学では、「自分で選んだ」と思っている行動にも、社会や歴史が深く関わっていると考えます。朝にコーヒーを飲む習慣は個人の好みに見えますが、コーヒー豆の原産国の植民地支配の歴史や世界的な流通の仕組みがあってこそ成り立ちます。「自分の選択」も、気づかぬうちに社会や歴史に方向づけられていることが多いのです。日常の身近な物事を「なぜそうなっているのか」と問い直す視点こそ、社会学の出発点です。
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