講義No.16405 史学・地理学

犬を飼うのは禁止? 日本の集落の文化と自治の歴史を追う

犬を飼うのは禁止? 日本の集落の文化と自治の歴史を追う

中世の荘園が発端?

日本の中世には、貴族や寺社、武士が土地を支配する「荘園」という仕組みがありました。その荘園の中には複数の村落が存在していました。戦乱や略奪が日常的に起きる時代に、村落で暮らす人々は、全員が刀などの武器を持ち、コミュニティを守るために団結していました。こうした自治を行う集落は「惣村(そうそん)」と呼ばれ、支配者も惣村のリーダーを通じて荘園を治めていたのです。今も各地の集落で続いている神社の氏子や、祭りの費用を公平に分担する当番制は、中世の自治の名残とされています。

各集落に独自の掟

惣村はそれぞれ独自の掟(おきて)を持っていました。その中には、現代の感覚ではすんなりとは受け入れ難いものもあります。例えば、室町時代の古文書に記されていた滋賀県のある村の掟には、「犬を飼ってはいけない」と書かれていました。なぜこのルールが生まれたのか、よくわかっていません。一説では、中世で犬は闘犬としてギャンブルに使われることがあり、それを禁止したのではないかとの見方があります。また、比叡山配下の日吉大社がサルを神聖な使いとしていたため、天敵の犬を遠ざけたという宗教的な解釈もあります。わずか1行の掟から、当時の社会や価値観の推理が広がっていくのです。

集落の記憶を残すには

古文書などの史料が残っていない地域でも、過去の集落の痕跡は意外な場所に刻まれています。「屋敷」「馬場」「城山」といった地名です。中世の名主の屋敷や武士の軍事施設に由来するこれらの地名を丁寧にたどることで、かつての集落の空間的な姿を推測することができます。「景観復原」と呼ばれるこの手法により、かつてどのような人々がどんな社会をつくっていたのかを明らかにしていく研究もあります。
過疎化が進み、何世紀にもわたって受け継がれてきた地域コミュニティの文化や風習は急速に失われつつあります。消えゆく集落の記憶を後世に残すことも歴史研究の大切な使命であり、全国の「ムラの戸籍簿」を作る取り組みも進められています。

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京都精華大学 人文学部 人文学科 歴史コース 准教授 吉永 隆記 先生

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日本史学

メッセージ

歴史は、京都や鎌倉のような有名な場所に行かなければ学べないものではありません。あなたが暮らす地元の地名やお祭りにも、歴史の情報はぎっしり詰まっています。例えば、「池田」のような地名は水はけの悪い湿地を、「岩倉」の「倉」は崩落しやすい崖を示すことがあり、実は地域の防災を考えるのに役立つ情報でもあります。歴史を動かしてきたのは、有名な政治家や戦国武将だけではありません。身近な場所から歴史を感じる視点を持つと、学ぶ楽しさがきっと広がります。

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