海洋生物の毒を薬に !? 有機合成化学が開く低分子創薬の道

海の毒に秘められた可能性
海洋生物が持つ天然の毒は、危険な一方で、生体内の仕組みを解き明かす重要な手がかりになり、薬の開発につながる可能性を秘めています。多くの「海洋生物毒」は強い生理活性を持ち、細胞膜にあるイオンチャンネルや受容体などのタンパク質に結合して神経伝達を乱すことで毒性を発揮します。このように、特定のタンパク質を見分けて強く結合する性質が、薬としての可能性につながるのです。
毒分子を人の手で「つくる」
注目されている海洋生物毒の一つが、海のプランクトンがつくり出す「スピロリド」です。この毒は食物連鎖を通じて貝に蓄積するため、一般には貝毒として知られています。
薬への道を切り開くには、まず、その分子を人工的に「つくる(合成する)」ことが必要です。量が少な過ぎる天然の毒をつくることで、薬の手がかりとなる分子の構造や作用を詳しく調べることができるのです。スピロリドの全合成にはまだ誰も成功していませんが、活性の中心となる部分構造の合成はすでに達成されています。
巨大な毒分子を「小さく硬く」する
天然毒は構造が大きく、複雑なため、そのままでは薬にできないことが多く、また時間もかかります。合成が難しい上に、大きすぎて生体膜を通りにくい、通れたとしても薬として作用するタイプの標的以外にも作用してしまう(サブタイプの選択性が低い)からです。また、構造を「微調整」によって薬っぽく改良していくことも困難です。
そこで活用されるのが「低分子化」というアプローチです。毒分子の中から薬効のカギとなる部分だけを取り出し、より小さく扱いやすい分子としてつくり直すのです。小さな分子にできると、合成が簡単になる上、構造の一部を変えても全体の形が崩れにくい(硬い)ので、効果を保ちながら副作用を減らすといった「微調整」が格段にやりやすくなります。スピロリドについて、全合成への挑戦と並行して、部分構造を活用した低分子創薬の研究が進められています。
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九州大学 理学部 化学科 准教授 土川 博史 先生
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