大きな可能性を秘めた「錯体化学」 酵素に似た錯体でシワ予防!

無限に広がる「錯体」の可能性
「錯体」とは、金属と非金属が「配位結合」という形で結び付いた物質を指します。この錯体は、組み合わせる金属と非金属によって多彩な性質や機能を発揮するため、機能性分子として幅広い分野で応用されています。
例えば、新幹線の青色を支えるフタロシアニン銅錯体のような顔料や、ゼオライトに代わる次世代多孔質材料として注目される「金属誘起構造体(MOF)」、さらには量子コンピュータへの応用が期待される「単分子磁石」など、錯体の可能性は無限大です。これらの分子は、量子化学的な性質や他の分子との相互作用を通じて新たな機能を発見する鍵となっています。
生物の体内にもある錯体
錯体は、私たちの体内でも重要な役割を果たしています。例えば、赤血球中のヘモグロビンは、ヘム鉄という錯体を活性中心に持つタンパク質で、酸素を運搬する役割を担っています。また、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)という酵素も錯体構造を持ち、活性酸素の分解を通じて体を酸化ストレスから守っています。
SODには銅―亜鉛SODやマンガンSODなど4種類のタイプがあり、いずれも遷移金属イオンを活性中心に含んでいます。これらの酵素は、生物が酸素呼吸を行う際に発生する活性酸素を効率的に除去する重要な仕組みを支えています。
錯体が切り拓くコスメティックサイエンスの未来
活性酸素は、老化やシワ、さらには病気の原因とされる物質です。そのため、活性酸素を除去する酵素を基にしたサプリメントや化粧品が注目されていますが、天然酵素をそのまま利用するにはコストが高く、実用化は難しいのが現状です。
そこで、酵素の活性中心にある錯体構造を模倣し、人工的に合成した遷移金属錯体を応用する研究が進められています。この技術が進展すれば、活性酸素を効率的に除去できる成分を用いたサプリメントや、シワ予防効果の高い化粧品が誕生する可能性があります。錯体化学とコスメティックサイエンスの融合が、この分野の未来を大きく変えるかもしれません。
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佐賀大学 コスメティックサイエンス学環(仮称) ※2026年4月設置構想中 教授 鯉川 雅之 先生
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