ブラックホールの謎を「音色」から解き明かす

重力波が伝えるブラックホールの声
宇宙に存在するブラックホールは、光を放たないため、直接見ることができません。そこで注目されているのが、時空のゆがみが波となって伝わる現象である「重力波」です。100年以上前に一般相対性理論により予言されていたものの、その観測は難しく、長らく実現しませんでした。2015年、ブラックホール同士の合体から生じた重力波が初めて観測され、遠く離れたブラックホールの姿を、重力波を通して探る新たな時代が幕を開けました。
30年越しに解けた「不協和音」の謎
ヴァイオリンやトランペットが固有の音色を持つように、ブラックホールにも重力波の固有の振動パターンがあります。約30年前、この理論計算の中で奇妙な振る舞いが見つかりました。重力波の「音の高さ」と「長さ」の関係をグラフに描くと、滑らかに変化するパターンの中に、一カ所だけ折れ曲がったような箇所が現れたのです。美しく調和する和音を乱す不協和音のようなこの現象は、一見すると計算ミスにも見えるほど奇妙でした。その解明に多くの研究者が挑みましたがかなわず、長い間謎に包まれていました。
2025年、ようやくこの謎が解かれました。解析では、重力波の「音の高さ」と「長さ」だけでなく、「大きさ」まで詳しく調べ、物性物理学や光学で発展してきた「非エルミート物理学」の考え方を取り入れました。その結果、この不協和音は、複数の振動が互いに影響し合う「共鳴現象」によるものだと明らかになったのです。
物理学の根本原理を宇宙で探る
この研究成果は、一般相対性理論が、ブラックホール近くの極端な重力環境でどこまで正確に成り立つのかを調べる手掛かりにもなります。現在の観測技術では、この「不協和音」に相当する微弱な信号を直接とらえることはできていません。しかし将来、より高性能な重力波観測装置が実現すれば、理論で予測された振動パターンを詳しく調べられるようになるかもしれません。宇宙で最も過酷な環境を舞台に、物理学の根本原理を探る研究が続けられているのです。
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