巨大ブラックホールの近くに星がある謎

なぜここに星があるのか
地球も属する天の川銀河の中心には、質量が太陽の約400万倍もの巨大ブラックホール「いて座A*(エースター)」があります。巨大ブラックホールの周辺は強い重力が働いており、星の材料となるガスやちりが集まりにくい環境です。一方で、いて座A*の周辺にはいくつもの星があります。いて座A*から1光年も離れていない距離にある「S0-6」もその一つです。研究ではハワイにあるすばる望遠鏡を用いて、8年間にわたるS0-6の観測が行われました。
遠い遠い星の動きを知る
観測で、星の動きを調べるために用いられる原理の一つが「ドップラー効果」です。救急車が近づくとサイレンの音は高く、遠ざかると低く聞こえる現象として知られています。音と同様に、光にも波の性質があります。星が近づくと光の色は青くなり、遠ざかると色は赤くなるのです。この変化を測定することで、星がどの方向に、どれぐらいの速さで動いているかがわかります。通常、何かの速さを測る際には「移動距離÷時間」で求めますが、遠すぎる星や銀河の距離は直接測れません。そこで光の情報を手がかりにして、星の軌道や速さを明らかにします。また星の動きを調べることで、ブラックホールの重さを調べることもできます。
星はどこから来たのか
観測で得られたS0-6の明るさ・温度のデータをモデルに当てはめてみると、S0-6が100億歳以上の非常に古い星であることがわかりました。さらに光を細かく分析してS0-6に含まれる元素の比率を測定したところ、天の川銀河の近くにある小さな銀河の星の元素比率とよく似ていることがわかりました。これはS0-6が天の川銀河とは別の銀河で生まれ、のちにその銀河自体が天の川銀河に取り込まれた、という可能性を示唆しています。「ブラックホールの近くになぜ星があるの?」という謎から始まった研究が、「天の川銀河はどのようにできたのか?」という謎にも迫れることがわかりました。次はどんな新しい謎が出てくるのか、研究はまだまだ続きます。
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