世界最速! ボルト選手の走りを科学する
身長が高いと短距離走は不利?
スポーツ・陸上競技短距離100m走の世界記録保持者であるボルト選手は、196cmの長身です。従来、身長が高い選手は短距離走で不利とされていました。長い手足は素早く動かしにくいので、スタートから加速するまでに時間がかかるからです。ところがボルト選手のスタートダッシュは、ほかの選手と互角以上のスピードがあります。これは故郷のジャマイカの坂の多い地形を生かし、ダッシュ練習を繰り返したからでしょう。通常、膝下が長いほど脚を回転させるために大きな力が必要となりますが、大腿筋と股関節筋を鍛え上げることで、並み外れた加速力を生み出しているのです。
スプリンターに適した遺伝子
近年の研究で、走力に関係する「ACTN3」と「ACE」という遺伝子が判明しました。この遺伝子は、瞬発力や持久力の度合いでタイプ分けできますが、アフリカ系の人は、統計的に7割以上が短距離に適した遺伝子タイプを持っています。中でもボルト選手は、特に瞬発力に優れた遺伝子タイプを持つと推測されます。
さらにアフリカ系の人々は、もともと骨盤が前傾しています。感覚的に平地を走っているときも、ゆるやかな下り坂を走っているような状態なのです。
「ねじれ」が生む爆発的なパワー
ボルト選手の走り方を観察すると、肩や骨盤が上下に揺れたり左右にねじれたりして、アンバランスなことが見て取れます。右足より左足で蹴り上げたときのほうが十数cmも歩幅が広いのです。一見不利に見える走り方ですが、実はこれも爆発的な力を生み出す要因になっています。「ねじれ」は体幹の力を下肢に伝えやすくするのです。
ボルト選手がこのフォームで走るのは、生まれつきの脊柱側湾症(背骨が曲がる疾患)が理由だと明かされていて、かつては脚の筋肉への負担から度重なる故障に悩まされていました。しかし体幹を徹底的に鍛えることで、この逆境を乗り越えることに成功しています。ボルト選手の走りは、努力の賜物でもあるのです。
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名桜大学 人間健康学部 スポーツ健康学科 教授 高瀬 幸一 先生
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