古代の美術品からその時代の「人の思考」が見えてくる

日用品にも目を向ける
美術史の領域では、特に古代ギリシアに着眼し、壁画やつぼに描かれた絵のテーマは何かを見極めて、「制作された時代のものの考え方、とらえ方」などを読み解いていく研究が行われています。対象となるのは、多くが有名な画家の作品や博物館などに置かれている美術品です。しかし中には、「普通の」人々が使っていた食器をはじめとする日用品にも目を向けて、広い視野からその時代、社会を理解しようという研究もあります。
日本人だからこその視点
例えば紀元前6世紀頃の有名なつぼには、ギリシア神話のトロイ戦争の一場面が描かれています。これは勇者が戦って倒れる、いわゆる「名誉の死」をモチーフとしています。それは人が社会のために尽くすという精神の賛美であり、そのような生き方を理想的と考える社会の存在を想起させます。このようなモチーフは日用品にも描かれていることから、一般においても共通した考えになっていると判断できます。また、トロイ戦争を描くにしても時代によって視点が変わることがあり、それを追うのも研究の着眼点の一つです。
加えて、ギリシア美術史研究はギリシアからの影響を大きく受けたヨーロッパで盛んですが、それを「日本人の目」で見つめていくことにも価値があります。なぜなら、ギリシアは元来「多神教文化」です。そして日本も「八百万(やおよろず)の神」という言葉があるように、多神教文化が根付いていると言えるでしょう。似通った文化を持つからこそ絵画に込められた思いを理解できる、そんな見方もできるからです。
多分野と結びついての美術史探究
美術史というと美の表現理解が中心にあると思われがちですが、実は政治学や哲学、歴史学、考古学など多様な学問領域と結びついています。その上で、今後は「明治時代に日本に流入したギリシア文化」がどのように受け入れられていったのか、比較文化学の視点を取り入れて、西と東、古代と現代で比較するとどのような考察が得られるかなど、探究の種は尽きません。
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