「見えない汚染」を探る環境分析学

MRIの造影剤が川を変える
MRI検査で使用される造影剤に含まれる希土類元素「ガドリニウム」が、都市の河川に蓄積されています。人間の体内から排出されたこの物質が、下水処理場を通じて河川に流れ込み、年々濃度が高まっているのです。このガドリニウムの濃度上昇が水生生物に与える影響を解明するため、人工的にガドリニウム濃度を調整した水槽で生物を飼育し、体内への蓄積や健康状態への影響が調査されています。
スマートフォンが環境汚染の元凶に?
ガドリニウムに限らず、新しく開発された技術や素材が環境に与える影響を正しく評価することが重要になっています。例えば、スマートフォン一台にさまざまな種類のレアメタルが使用されています。このレアメタルは、使用後にすべてリサイクルされるわけではなく、一部は環境中に放出されます。スマートフォンの利用が拡大することで、これまで自然界にはほとんど存在しなかった物質が環境中に蓄積され、環境汚染につながる可能性があります。
超微量の元素が教えてくれること
環境水中の微量元素分析は、オリンピックサイズのプールに耳かき一杯の1,000分の1という超微量の物質を溶かしても検出できる精密さを持っています。この技術を駆使して、基準値が定められている物質だけでなく、できるだけ多くの元素を測定し、そのパターンから環境変化を早期に発見する研究が進められています。現在50~60種類の元素の測定が可能であり、そのパターンを調べると、下水放流水の前後での変化や、地質の影響、有機物の多さなど、さまざまな環境情報が読み取れます。この分析は汚染物質の検出だけでなく、水生生物に必要な鉄や亜鉛などのミネラル分の研究にも役立ち、「水の健康状態」を総合的に評価できます。
PFAS(有機フッ素化合物)などの有害物質が問題視されるようになったのは、使用開始からかなり経過してからでした。環境中の微量元素を継続的に監視することで、新たな環境問題を未然に防ぎ、私たちの生活環境を守ることができるのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報

麻布大学生命・環境科学部 環境科学科 教授伊藤 彰英 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
環境分析化学、メタロミクス先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?