講義No.14880 化学 環境学

「見えない汚染」を探る環境分析学

「見えない汚染」を探る環境分析学

MRIの造影剤が川を変える

MRI検査で使用される造影剤に含まれる希土類元素「ガドリニウム」が、都市の河川に蓄積されています。人間の体内から排出されたこの物質が、下水処理場を通じて河川に流れ込み、年々濃度が高まっているのです。このガドリニウムの濃度上昇が水生生物に与える影響を解明するため、人工的にガドリニウム濃度を調整した水槽で生物を飼育し、体内への蓄積や健康状態への影響が調査されています。

スマートフォンが環境汚染の元凶に?

ガドリニウムに限らず、新しく開発された技術や素材が環境に与える影響を正しく評価することが重要になっています。例えば、スマートフォン一台にさまざまな種類のレアメタルが使用されています。このレアメタルは、使用後にすべてリサイクルされるわけではなく、一部は環境中に放出されます。スマートフォンの利用が拡大することで、これまで自然界にはほとんど存在しなかった物質が環境中に蓄積され、環境汚染につながる可能性があります。

超微量の元素が教えてくれること

環境水中の微量元素分析は、オリンピックサイズのプールに耳かき一杯の1,000分の1という超微量の物質を溶かしても検出できる精密さを持っています。この技術を駆使して、基準値が定められている物質だけでなく、できるだけ多くの元素を測定し、そのパターンから環境変化を早期に発見する研究が進められています。現在50~60種類の元素の測定が可能であり、そのパターンを調べると、下水放流水の前後での変化や、地質の影響、有機物の多さなど、さまざまな環境情報が読み取れます。この分析は汚染物質の検出だけでなく、水生生物に必要な鉄や亜鉛などのミネラル分の研究にも役立ち、「水の健康状態」を総合的に評価できます。
PFAS(有機フッ素化合物)などの有害物質が問題視されるようになったのは、使用開始からかなり経過してからでした。環境中の微量元素を継続的に監視することで、新たな環境問題を未然に防ぎ、私たちの生活環境を守ることができるのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

麻布大学 生命・環境科学部 環境科学科 教授 伊藤 彰英 先生

麻布大学生命・環境科学部 環境科学科 教授伊藤 彰英 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

環境分析化学、メタロミクス

先生が目指すSDGs

メッセージ

勉強に集中することも大切ですが、それだけではなく、世の中で何が起きているのかにも常にアンテナを張ってほしいです。環境問題をはじめ、社会のさまざまな動きはすべてつながっています。少しの時間でも、ニュースや話題になっていることに目を向けてみてください。それは単に知識を増やすだけでなく、将来の進路や自分が本当に興味を持てるものを見つける大切なきっかけになり得ます。今、広い視野を持つことが、未来のあなたの可能性を広げることにつながるのです。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

麻布大学に関心を持ったあなたは

はじまりは1890年に開設した東京獣医講習所でした。
まだ栄養状態が豊かでなかったこの国の、人の生活を豊かにするため、畜産の発展に寄与するため獣医師の養成をはじめました。それから約130年の時を経て、人の社会と動物のかかわりは深くなり、複雑になり、生きものすべてが新しいバランスで循環する「いのちのあしたのあり方」が求められています。
これが私たちの目指す「地球共生系」です。
最先端の研究と確かな実践力で、「人と動物と環境」に向き合い、地球のあしたをつくる。これが私たち麻布大学です。