博多祇園山笠に見る、スピードを求めて進化したデザイン

山笠が走る
「山車(だし)」「山笠(やまかさ)」「山鉾(やまほこ)」などと呼ばれる、装飾のある出し物が登場する祭りが、日本各地にあります。その一つ、福岡県の博多で行われる「博多祇園山笠」は、神社に山笠を奉納する神事であり、決められた区間を走り抜ける時間を競う「追い山笠」が特徴です。よって、山笠は他地域の山車に比べて軽く作られています。木材同士は釘をほとんど使わない組み方を用い、縄で堅く括られます。縄の結び方にも独自の工夫があり、力を受けても壊れにくい構造になっています。
形の変化
博多の山笠は最初から今の形だったわけではありません。江戸時代初期の「博多祇園山笠図屏風」には、現在よりもずっと背が高く、京都の「祇園山鉾」と似た姿の山笠が描かれています。当時は町ごとに、時間ではなく豪華さを競って巡行する行事だったようです。その後、江戸時代に速さを競う「追い山笠」が始まったことから、巡行速度を重視して軽量化され、今の形に近づいていったと考えられます。
変化の中でも、明治43年、路面電車敷設による架線が山笠高さに与えた影響は大きく、この時、巡行速度に特化した“舁き山”と装飾に特化した“飾り山”に分化しました。現在も高低2種類の山笠が街を彩っています。
歴史に育まれた形
山笠のデザインは、歴史の中で何度も工夫や改善を重ねながら、今の形になりました。デザインは、時折現れる発明的なアイデアによって修正され、うまくいけば定着し、そうでなければ廃れていくという流れに沿って「歴史の中で培われた合理的な形」として育まれてきたのです。
現代デザインを考える際も、こうした地域に残る歴史や伝統に注目することがヒントになります。過去の知恵を訪ね、それを生かした新しいデザインを考えることは、未来のものづくりにつながるアプローチの一つです。在学中このようなテーマを追究した学生の多くが、卒業後、多様なデザイン分野で活躍しています。歴史や伝統の中には、まだまだ現代に生かせる「デザインの種」がたくさん眠っています。
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先生情報 / 大学情報

大阪産業大学建築・環境デザイン学部 建築・環境デザイン学科 教授松内 紀之 先生
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