酵母と米の研究が導く、日本酒の香りを自由にデザインする未来

酵母がお酒の香りを決めている
日本酒にはフルーティな香り、花の香りなど、さまざまな香りがありますが、それらの香り成分は「酵母」という微生物が作っています。よく知られている香り成分の一つが、華やかでお酒らしい香りの「イソアミルアルコール」です。しかし、その量が多くなると油性ペンのインクのようなきつい香りになってしまいます。イソアミルアルコールを作る過程に関わる遺伝子がわかれば、その遺伝子があまり発現しない株を使ったり、遺伝子の発現をコントロールしたりして、日本酒の香りを変えられるようになるはずです。
香り成分を作る酵素の遺伝子は?
小さな酵母の体の中ではさまざまな酵素が働いて、さまざまな分子を作っています。そのうちグルコースからイソアミルアルコールを作る過程には、「脱炭酸酵素」が関係していることがわかっています。この脱炭酸酵素の働きを弱めれば、イソアミルアルコールの量を減らせるものと予想して、脱炭酸酵素の遺伝子だといわれていた5つの遺伝子を一つずつ破壊しました。しかし、予想に反してイソアミルアルコールの量は減りません。詳しく調べてみると、一つは脱炭酸酵素ではなく、補酵素を安定的に供給する役割であることがわかりました。酵母の代謝経路には、まだまだ解明されていない部分が残っています。
原料の酒米の成分と香りの関係は?
日本酒の原料となる酒米には、「山田錦」や「五百万石」など100を超える品種があり、酒米が変わると酒の香りが変わることも知られています。酒米ごとに成分が少しずつ違っており、この米にはこのビタミンが多いからこの香り成分が多い、このアミノ酸があるとこの香り成分ができる、といった相関関係があると考えられます。一つ一つ見ていくと、いくつかのビタミンやアミノ酸で、香り成分との関係性が見えてきました。将来は、米作りの段階から肥料を調節したり、酒米の状態に合わせて酵母を選んだりして、日本酒の香りをデザインできるようになるのかもしれません。
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新潟食料農業大学 食料産業学部 食料産業学科 フードコース 助教 小橋 有輝 先生
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