ただ訳すだけじゃない! 翻訳者が社会に対して担う重要な役割とは

翻訳から生まれた言葉たち
「恋愛」や「社会」といった言葉は、明治より前の日本にはありませんでした。これらは、翻訳がきっかけで日本語のなかで用いられるようになりました。海外からの文学や情報を日本語に翻訳する際に生まれた言葉で、実は、こうした日本語の語彙や表現などはたくさんあります。
翻訳者は、外国語を日本語にただ訳しているわけではありません。読者に、何をどのように伝えたいか、理解してもらいたいかを、考え抜いて行うのが翻訳なのです。
翻訳者の思いや意図を読み解く
明治時代に翻訳された手書き資料を見ると、その経緯がわかります。英語から日本語に、一単語ずつ順に訳すだけでは、原文の意味がうまく再現できません。最初の翻訳原稿に赤字で何度も修正を入れ、漢字やカタカナを使い分けて、句読点をどこに打つかを検討しながら仕上げているのです。そこには、翻訳者の考えや意図、どう訳すかというこだわりも反映されていて、同じ作品でも翻訳者によって訳が変わります。訳された作品と翻訳者の言説を検証すると、どんな意図で翻訳したのかが見えてきます。
また、日本では翻訳者が注目される傾向があります。明治時代には表紙に原著者名がなく、代わりに日本語タイトルと翻訳者名が記載されている出版物があったくらいです。また過去にも現在にも、ファンがいる翻訳者もいます。こういった現象は世界的に珍しく、日本の翻訳者たちの影響力が窺われます。
異文化の架け橋に
最近は、英語圏において、sheやheの代わりに、ジェンダーニュートラルな3人称単数代名詞として、theyを用いることがあります。例えば、小説のなかで、ある登場人物が「私を指す場合はtheyを使ってほしい」と言ったとします。このセリフはどのように日本語に翻訳したらよいでしょうか。翻訳には、新しい概念を移入するという重要な役割もあるのです。
近年はAIで翻訳する機会が増えていますが、上記のケースにどのように対応すべきか検討することなど、人間が中心となって行うべき翻訳場面がまだまだあります。
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