「令和の米騒動」から考える、スコープの違いと共通の領域

米は輸入自由化すべき?
2024年秋以降に米の価格が高騰し、価格を下げるために輸入を全面開放すべきか、従来通り制限すべきかという論争が起きました。開放派は、安い米が入ることで日本の農業が再編され、より効率性と生産性の高い農業に生まれ変わるという主張です。一方制限派は、食料自給率が低くなって日本の食と農業が外国に支配されるリスクを指摘します。実はこれに酷似した状況が18~19世紀のイギリスでも見られました。トマス・ロバート・マルサスとデヴィッド・リカードという経済学者が、安価な外国産穀物の輸入を認めるべきか排除すべきかという「穀物法論争」を展開したのです。
スコープの違い
こうした意見の対立が生じるのは、それぞれが見る「スコープ(領域・範囲)」が違うからです。互いが見えている領域もあれば、片方にしか見えていない領域もあります。
例えば「経済学の父」アダム・スミスは、経済成長のために農・工・商の順に投資することを自然だとしましたが、ヴェルナー・ゾンバルトはこれを「取引所のない経済学」と批判して、金融・証券市場の役割の大きさを主張しました。産業革命の進行中に活躍したアダム・スミスと、その後の巨大な重化学工業化とともに、株式・金融市場からの資金集めが確立された時代に活躍したゾンバルトのスコープは、「時代」によって大きな違いがあったのです。
音楽と学説
偶然聞こえてきた曲が「いいな」と思ったとき、あとで聞き返すと自分が好きなほかの曲と同じようなコード進行だったということがあります。経済学のさまざまな学説にも、同様に共通項が見られます。経済学者も、互いに影響を与え合いながら学説を作っていくからです。一方で、学説は経済学者という「人」に属するため、その人の生きてきた時代や地域といった「背景」によって、ほかの学説との違いが生まれます。それは学説の正誤ではなく、ある学説はどの部分を捉えており、どの部分を捉えていないのか、という視点から経済学の歴史を分析することで、得られる発見が数多くあるのです。
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専修大学 経済学部 生活環境経済学科 教授 恒木 健太郎 先生
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