海外で使われている日本語とは? パラオに根付く「借用語」を探る

海外で使われている日本語とは? パラオに根付く「借用語」を探る

パラオで使われている日本語

日本語にも外来語が存在するように、他の言語にも日本語からの借用語が取り入れられています。その一例が、太平洋の小さな島国パラオで話されているパラオ語です。戦前、日本による統治が行われていた時代に日本語が伝わり、その影響は21世紀の現在も、借用語としてパラオ語に残っています。しかし、その影響の大きさや詳細については、これまで十分に明らかにされていませんでした。そこで、フィールドワークを中心に、パラオ語に残る日本語借用語の実態を明らかにするための研究が行われました。

乾杯が「衝突」に?

調査では、まずパラオ語の辞書に掲載されている日本語由来の借用語を抽出し、この時点で約500語が確認されました。次に、さまざまなパラオ人にインタビューを行い、新たな語彙を収集するとともに、借用語の認知度や意味・用法の実態を確認しました。「花札」や「かりんとう」といった遊びや食に関する言葉、子ども向けに使われる幼児語など、日本語由来の語は多様な意味分野で見つかりました。また、日本語とは異なる意味や用法で定着している語も見られました。たとえば、パラオでは乾杯の場面で「衝突」という語が使われており、これは日本語とは異なる独自の使われ方です。さらに、「仕事帰りにお酒を飲むこと」を「疲れなおす」と表現するなど、日本語をもとに新しく生まれた語も確認されています。

借用語の辞書作り

調査の結果、1,000語以上の日本語由来の借用語が確認されました。この調査結果をもとに新たに辞書が作成され、パラオ教育省を通じて現地の学校に配布されています。研究を通して、パラオの人々が日本語の借用語に関心を持っていることが明らかになったため、これを現地の教育に活かすことが検討されています。現在は、言語教育だけでなく、パラオと日本の友好促進にも辞書を役立てる取り組みが進められています。今後は、海外の日系人コミュニティでも調査を行い、文化理解や継承につなげようと研究が進められています。

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東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋政策文化学科 准教授 今村 圭介 先生

東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋政策文化学科 准教授 今村 圭介 先生

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社会言語学

メッセージ

世の中には面白いことがたくさんあります。まずは自分の興味に従って、さまざまなフィールドに足を運んでほしいと思います。私も元々は大学で物理を学んでいましたが、留学中に興味を持った言語学の道に進みました。言語習得のプロセスや日本語と英語の違いなどに疑問を持ち、調べてみたいと思ったのがきっかけです。こうした興味は、留学しなければ気づけなかったと思います。皆さんも狭い世界にとどまらず、視野を広げてください。今までとは違う気づきを得られたり、面白いものに出会えたりするはずです。

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東京海洋大学は、全国で唯一の海洋にかかわる専門大学です。2大学の統合により新しい学問領域を広げ、海を中心とした最先端の研究を行っています。海洋の活用・保全に係る科学技術の向上に資するため、海洋を巡る理学的・工学的・農学的・社会科学的・人文科学的諸科学を教授するとともに、これらに係わる諸技術の開発に必要な基礎的・応用的教育研究を行うことを理念に掲げています。