微細な泡が有害薬品の代わりになる! 環境を守るめっき研究

微細な泡が有害薬品の代わりになる! 環境を守るめっき研究

軽くて金属のような素材

見た目は金属なのに、手に取ると驚くほど軽い製品があります。これは、ABS樹脂というプラスチックの一種にめっき加工を施したものです。ABS樹脂は強度があり、衝撃にも強く、加工しやすいため、家電製品や自動車部品、文房具など、さまざまな分野で使われています。ただし、紫外線に弱く変色しやすいため、表面にはめっき加工が必須です。加工の前処理として、めっきの密着性を高めるために表面をわざと荒らす必要があり、現在は六価クロムや硫酸といった有害な薬品が使われています。これらは環境や人体への影響が大きく、2024年に使用禁止となる予定でしたが、まだ代替技術が十分に普及しておらず、世界中で使われ続けているのが現状です。

環境に優しい新技術の開発

この問題を解決するために注目されているのが、ウルトラファインバブルとオゾンを組み合わせた新しい技術です。ウルトラファインバブルとは、直径が1μm未満の微細な泡のことで、最近ではシャワーヘッドなどにも使われています。この泡が壊れるときに、一瞬だけ数千℃の高い温度になるとされており、そこに酸化作用のあるオゾンを組み合わせることで、プラスチックの表面を効果的に荒らすことができます。この方法により、従来の有害物質を使わなくても、同レベルのめっき密着性を実現できることが明らかになってきました。

環境負荷のかからない表面処理

現在のウルトラファインバブルの発生装置は、高さが2mもある大型なもので、移動や設置が難しいという課題があります。今後は小型化やコストダウンを進めることで、現場で使いやすい装置の開発が目標とされています。また、従来の薬品では表面が荒れすぎてしまい、細かい装飾品に向かないケースもありましたが、ウルトラファインバブルなら繊細な加工も可能です。環境への負荷を減らしながら、より高品質な製品づくりを可能にするこの技術は、今後のものづくりの未来を大きく変える可能性を秘めています。

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先生情報 / 大学情報

関東学院大学 理工学部 理工学科 表面工学コース 教授 田代 雄彦 先生

関東学院大学 理工学部 理工学科 表面工学コース 教授 田代 雄彦 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

表面工学、薄膜・表面界面物性、環境学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私が理工系で求める学生像として挙げているのは、真面目で誠実であること、挑戦し続けること、好奇心旺盛であること、そして向上心や探究心があることです。これらはどれも研究者として欠かせない資質です。それに加えて、優しさや利他の精神を持ち、人や社会のために役立つ研究をめざすことも、研究者にとっては重要な心構えだと考えています。自分本位ではなく、人にも物にも思いやりを持てる研究者をめざして、ぜひ一緒に学び、研究を進めていきましょう。

先生への質問

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関東学院大学に関心を持ったあなたは

1884年(明治17年)、関東学院は横浜山手に神学校として創立されました。長い歴史と伝統をもつ関東学院はキリスト教の優れた思想、芸術、奉仕の精神を礎に、校訓「人になれ 奉仕せよ」のもと広く世の中に貢献できる学問・知識を身につけた有能な人材の育成を目指してきました。現在では、文理にわたる学部を擁する総合大学へと発展。伝統に裏打ちされたキャンパスライフサポート、学修サポート、キャリアサポートの3つのサポート体制で学生一人一人に合わせた支援をこれからも行っていきます。