心理学で開くアートの扉 鑑賞者の心を導く展示の工夫

心理学で開くアートの扉 鑑賞者の心を導く展示の工夫

美術館で作品を「体験」

従来の美術館などのミュージアムでは、絵画や彫刻を「静かに眺める」ことが主な鑑賞スタイルでした。近年では、VR・XRなどの映像装置やセンサーを使い、鑑賞者自身が作品に関わって体験する「インタラクティブアート」などの「メディアアート」が注目を集めています。こうした体験型の作品であっても、鑑賞者は「どうやって使うの?」と戸惑い、そのまま通り過ぎてしまうことがあります。そのため、作品をただ置くだけでなく、使い方を示す案内や、展示空間の工夫など、体験に導く仕掛けが重要になります。

体験をデザインする

そこで注目されているのが、心理学や情報工学・情報科学などの知見を取り入れ、アートとサイエンスを融合した研究です。心理学では、人が何に注意を向け、どのように理解し行動するかといった仕組みを分析します。こうした知見を活かして展示方法を工夫することで、鑑賞者により深い体験を提供することができます。また、多くの美術館は建設当初、インターネットや映像投影などの新しい表現手法を想定しておらず、技術的な制約も残されています。こうした環境の中でも、「どうすれば鑑賞者が戸惑うことなく作品に触れ、体験を楽しめるのか」を探る取り組みが続けられています。

未来のアートは深化する

研究プロジェクトのひとつに、研究者がアーティストや技術者と協力し、「デジタルパブリックアート」を羽田空港ビルディングで展示した取り組みがあります。鑑賞者の体験設計をすることで、多くの人が自然に作品に触れ、芸術体験を楽しみました。こうした展示の工夫は、作品にとどまらず、アンケート設計やワークショップの企画にもおよび、科学的な調査手法や心理学知見が活かされています。また、研究や作品制作の中間段階で発表を行い、鑑賞者のフィードバックを取り入れて完成させる取り組みも見られます。人の行動や感性を理解しながら展示を深化させていくこの実践は、未来のアートのあり方を模索するうえで、重要な取り組みのひとつとなっています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

大阪芸術大学 芸術学部 アートサイエンス学科 准教授 大谷 智子 先生

大阪芸術大学 芸術学部 アートサイエンス学科 准教授 大谷 智子 先生

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アートサイエンス

メッセージ

高校ではいろいろな勉強をしますが、入試で必要のない科目はじっくりと学ぶことを諦めてしまうかもしれません。でも、何が将来役に立つかは本当にわからないものです。私も文学部出身ですが、高校時代に好きで学んだ数学が今の研究でとても役立っています。「これしかやらない」と決めつけず、興味を持ったものは何でも学んでほしいです。恥ずかしいとか、周りの目を気にする必要もありません。好奇心を大切にして、いろいろなものを見てみる姿勢が、未来のあなたをきっと支えてくれます。

大阪芸術大学に関心を持ったあなたは

大阪芸術大学は創立約80年、関西で最も歴史のある総合芸術大学です。芸術学部は造形系、メディア系、音楽系、教育系の4系統に分かれ、現在15学科で構成されています。造形系にはアートサイエンス・美術・デザイン・工芸・建築・写真の5学科、メディア系には映像・キャラクター造形・文芸・放送・芸術計画・舞台芸術の6学科、音楽系には音楽・演奏の2学科、教育系には初等芸術教育学科があります。各学科の専門性を磨くことはもちろん、学科間のコラボレーションも積極的です。