複雑な分子構造を攻略! 動植物由来の有機化合物合成法の開発

動植物由来の有機化合物を役立てる
伝統的な健康食品や漢方薬など、動植物に含まれている有機化合物の成分が人間の体に役立つことは、経験的に知られてきました。現代ではさらに発展し、さまざまな成分を抽出したり人工合成したりして、薬の材料として、あるいは一部のサプリメントや機能性食品に添加して利用されています。
ただ、栽培が難しい植物や希少な動植物から得られる成分、抽出にコストがかかる成分を実用するには、人工的に合成する必要があります。分子が単純につながったプラスチックなどと異なり、動植物に含まれる有機化合物はその構造が立体的で複雑なため人工合成が難しく、合成方法の研究開発が注目されています。
感染症への効果が期待される成分
動植物によく含まれている「トリテルペノイド」という種類の有機化合物があります。その中には感染症の原因となるコロナウイルスやマラリア原虫を抑える効果が期待されているものもあります。
トリテルペノイドには、原子が多角形の環状につながった構造を持つものが多くあります。5角形、6角形、7角形などが複雑に組み合わさり、これまで合成が難しかった構造を、さまざまな反応を組み合わせて合成する独自の技術が開発されています。これにより、新たに合成できるようになったトリテルペノイドが多数あります。合成されたトリテルペノイドで、抗ウイルスの効果を確かめる研究が行われており、効果が立証されれば医療や生命現象の解明に貢献する可能性があります。
実用的な合成法の確立
有機化合物は、その分子構造がわかれば理論的にはすべてについて、合成の設計図を作成することが可能です。しかし実際には、その設計図に沿って一つの合成法が見つかっても、時間やコストがかかり過ぎたり、少量しか作れなかったりと、実用に向かないケースがたくさんあります。低コストで、効率的に大量に作れる合成法の開発は常に社会から求められています。その意味でも、動植物由来の有機化合物の合成法の研究は、大きな可能性を秘めています。
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先生情報 / 大学情報

京都大学 農学部 食品生物科学科 生命有機化学分野 教授 塚野 千尋 先生
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