文学と言語学の二刀流で、ドイツ語の世界を探る

『変身』に登場した虫の形は?
20世紀初頭に書かれた、カフカの『変身』という有名なドイツ文学作品があります。グレーゴル・ザムザというサラリーマンが朝目覚めると虫になっていた、という物語です。グレーゴルの虫の形状についてはさまざまなイメージが持たれており、はっきりしないところがあります。しかし少なくとも原文のドイツ語を見ると、「甲虫」という単語で書かれている箇所があるので、カブトムシやカナブンに似た外見の虫だったとわかります。このように原文の言語を知ると、海外文学の描写をより詳細に味わえます。
文学に現れるドイツ語の変化
そのドイツ語は18世紀後半頃から大きく変化していないため、『変身』も21世紀とほぼ同じドイツ語が使われています。一方でそれより前のドイツ語には、現代とは違う意味で使われている文法がいろいろありました。その事例の一つが現在完了形です。ドイツ語の現在完了形は、英語の「have」に相当する「haben」と、過去分詞の組み合わせで表現します。「haben+過去分詞」はもともと、「~された状態のものを今ここに持つ」という意味で使われていたのです。そのようにもともとは現在の状態を表していたものが、1200年頃には英語の現在完了形のように、「完了」、「存続」、「経験」を表すようになり、さらに1500年頃には、単に過去の出来事を表すように変わっていったのです。
文法変化はドイツ語だけではない
現在を表現していた文法が過去の意味に変化する、という事例は日本語にも見られます。古典文学に登場する、完了の意味を表す助動詞「たり」です。もともとの形は「てあり」で、「~して、そのあとの状態が今存在している」という意味でした。ほかにもロシア語などに同様の文法変化が見られます。なぜまったく別の言語に共通点が見られるのか、文学に残された表現も手がかりにして探ろうと研究が試みられています。
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