キリスト教絵画を読み解く

絵で見る旧約・新約聖書の結び付き
ビザンティン帝国時代の教会遺跡、イスタンブールのコーラ修道院・葬礼用礼拝堂には、14世紀に制作された壁画が残されています。礼拝堂中央には複数の旧約聖書の物語場面が描かれており、たとえば出エジプト記「モーセと燃える柴(しば)」では、モーセの前に、燃え尽きることのない不思議な柴があり、柴の中にはモーセに語りかける天使と、その脇に聖母マリアと幼子イエスが描き込まれています。旧約の物語はイエスやマリアが登場するより遥か昔の出来事ですから、本来なら旧約の絵にマリア達が描かれるのは不自然ですが、この表現は「予型論」というキリスト教の神学解釈に基づくものです。旧約の様々な事象をキリスト到来の予告と捉える解釈です。「モーセと燃える柴」では、神の炎に包まれる柴が、神の子イエスを身に宿すマリアと結び付けて解釈されており、これを示すために柴の中に聖母子が描き込まれています。
配置による新たな意味の生成
聖堂の壁画の場合、絵の意味は配置とも深く関わっています。上述のコーラ修道院「モーセと燃える柴」では、モーセが神を恐れて柴から顔を背ける動作が見られますが、これに隣接する壁画は「最後の審判」であり、そこでは神と人が直接向き合う場面が描かれています。「神を見ることを恐れて顔を背ける」、「神と対面する」ことが対比的に表現されており、葬礼用礼拝堂という場所の機能とも併せて、死後に神の御顔を仰ぐことの憧れを表したプログラムであると考えられます。
キリスト教絵画を読み解く楽しみ
このように、キリスト教の絵画は単純な聖書の描き起こしではありません。絵には、聖書に典拠のある情報だけでなく、聖書に書かれない情報も含まれます。キリスト教の神学解釈や文学的著作など、様々なものから構成されていますし、それらの並べ方によっても新たな文脈が作られます。研究では、こうした壁画を分析し、その意味を読み解いていきます。絵の主題選択や並べ方から、当時の人々の信仰や時代ごとの変化も見えてくるのです。
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