救急の迅速化を図る一本の電話「コールバック」の取り組み

救急車がすぐ来ない現実
日本の救急医療は今、危機的な状況に直面しています。総務省消防庁によると、2023年の救急車の平均現場到着時間は約10分と、10年前より1分半も遅くなっています。救急車の出動は1日平均約2万件、約4秒に1回のペースで発生しており、出動件数の増加が到着の遅れの一因になっています。さらに、現場到着から病院に収容されるまでの時間も平均約43分と長くなり、命を脅かす問題になっています。交通渋滞や搬送先の確保など、多くの課題が絡み合う中で、今注目されているのが「コールバック」という手法です。
出動中にできる、もう一つの準備
コールバックとは、119番通報を受けた後に出動した救急隊員が通報者に電話をかけて、現場の状況や患者の状態を詳しく確認する取り組みです。これにより、救急隊員は出動中の車内で必要な装備や応援の要否を判断し、現場到着後の初動を大きく早めることができます。例えば事故の場合、救助隊が必要かどうかを事前に把握できれば、到着前からの連携が可能です。また、現場に到着してから倒れた原因を観察して探るのではなく、ある程度の情報を得ることで脳疾患などの疑いが浮上すれば、脳神経外科のある病院を先に選定でき、搬送までの時間を短縮できます。こうした情報のやりとりが、命を救う数分の差につながるのです。
救急の知見を未来へつなぐ
しかし、このコールバックはまだすべての地域で体系的に行われているわけではありません。質問内容も個人の経験に頼る部分が多く、標準化には至っていないのが現状です。そこで、実際の指令現場を想定したインタビュー調査を実施し、共通して聞くべき項目を整理して、より効果的なコールバック方法の研究が行われています。今後はその成果を教育にも還元し、未来の救急救命士たちが現場で的確な判断を下せるようにすることが目標です。限られた時間の中で最善の行動を取るという積み重ねが、日本の救急医療の未来を支えていきます。
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