「恐れ」が生態系を動かす? シカとオオカミとの意外な関係

「恐れ」が生態系を動かす? シカとオオカミとの意外な関係

捕食より怖い、恐れの力

近年、オオカミが絶滅した地域では、シカによる農作物や森林への被害が深刻化しています。野生のオオカミが現存する地域での研究から、オオカミがシカを仕留める成功率は低く、数日に1回程度であることがわかりました。シカの繁殖力はとても高く、捕食効果だけではシカの増加を十分に抑制できないのです。
しかし、オオカミの活動中心地域と辺縁部とで、シカの行動や排せつ物の比較調査を行った研究では、「襲われるかもしれない」という恐怖がシカの行動やストレスホルモンの分泌量を変化させ、栄養状態や繁殖率にまで影響することがわかりました。この「捕食リスク効果」が、シカに対して実際の捕食よりも強い影響を及ぼすのです。

日本の森では

オオカミが絶滅した現在の日本にはシカの天敵はいませんが、人間がシカにとっての「捕食者」の役割を果たしています。狩猟期や人里の近くではシカの警戒心や夜行性が強まり、人との遭遇を避けることが確認されたのです。一方、ツキノワグマが多い場合ではシカの警戒行動にはほとんど影響せず、シカの捕食者として機能しないことが明らかになっています。人による管理か、天敵の復活がない限り、シカ問題の解決は難しいと考えられます。

オオカミ復活の日は来るか

欧米では、絶滅した地域にオオカミを放って繁殖させる「再導入」や生息環境の改善によってオオカミが再び生息するようになった地域があります。オオカミの復活後には生態系が変化するなど一定の効果を収めています。日本でのオオカミ再導入に関する全国1万人超を対象としたアンケート調査では、賛成は17%にとどまる一方、「どちらとも言えない」が43%を占めました。ところが専門家による講座を通じて賛成意見が有意に増加することも確認されており、知識を広めることが賛成の合意形成を促す可能性を示唆しています。
人口減少が進み、人による山林管理が難しくなる将来の日本で、野生動物とどう共存するのか、そこには、私たちの未来がかかっているのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

長野大学 共創情報科学部  准教授 角田 裕志 先生

長野大学 共創情報科学部 准教授 角田 裕志 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

動物生態学、保全生物学

メッセージ

野生動物と人間との共存には、絶対的な正解がありません。だからこそ、これまでの価値観にとらわれずに、多角的な視点で考えて、自ら答えを導く力が求められます。何十年か後、あなたが迎えるのは、人口がさらに減ってしまった未来です。その時に、野生動物とどう折り合いをつけているか、どうしたら野生動物と共存する豊かな社会を実現できるのか、それらを考えることは、未来を自分たちの手で切り開くことにつながります。答えのない問いに挑み、未来を創るこの分野に、興味を持ってもらえると嬉しいです。

長野大学に関心を持ったあなたは

長野大学は、1966年に地域の熱い期待を背負って誕生した「地域立」の大学です。本学は地域にある課題を発見し、地域とともに解決していく実践的な学びを大切にしています。地域には豊かな自然環境や歴史が宿る文化遺産、経済を牽引する産業や観光資源、安心して暮らせるまちづくりなど学びの要素があふれています。地域社会をフィールドに、主体的に考える力や、問題に対して多面的に取り組む力を養いながら漠然とした問題を明確化し、逆境に立ち向かっていける足腰の強い人材を育成します。