情報の正しさはどう見抜く? 議論を積み重ねてきた仏教論理学

正しく認識する方法とは
私たちは日々、大量の情報にさらされています。何が正しいのか、判断する基準をどう持てばいいでしょうか。「仏教論理学」は、その問いに真正面から向き合った学問です。
仏教論理学では、正しい認識の方法は2種類しかないと考えます。1つは知覚で、目の前のものを直接見て確かめることです。もう1つは推理で、例えば、遠くの山から煙が立ち上っているのを見て、そこに火があることを推測することです。この2つの方法以外は、たとえ権威ある聖典の言葉でも、正しいとは見なされません。ブッダもまた、自分でよく吟味せずうのみにしてしまうことを戒めています。
哲学者たちの対話
『真実集成』という作品の中心にある観念は「縁起」です。縁起とは、あらゆるものは因果関係または何らかの関係性の中に存在しているという考え方です。仏教以外の学派は「創造神が世界をつくった」「永遠の魂がある」などと主張しますが、縁起の考えでは、根源的な単一の原因や永続的なものは存在しません。あらゆるものは因果と関係性の連鎖の中で生じると考えるからです。『真実集成』では、他学派の主張を仏教的視座から批判していきますが、議論の目的はいわゆる論破ではありません。それぞれの議論が次の問題へのステップとなり、作者は対論者と、真実へと向かう哲学的対話を積み重ねていくのです。
人の理性を信じる
『真実集成』の精神は現代にもつながります。20世紀のインドではアンベードカルという人物が、カースト制度のもとで差別に苦しむ人々と共に仏教に改宗し、差別からの解放をめざしました。彼は因習や迷信を批判し、人の理性と知性によって社会を変えるべきだと考えました。人間の理性と論理を重んじるその姿勢は、仏教論理学の精神そのものです。
情報があふれ、偏見や思い込みが形を変えて存在する現代においても、「自分の目で確かめ、しっかり吟味し、筋道を立てて考える」ことの重要さは変わりません。古代の思想は、今を生きる私たちにも判断の軸を与えてくれるのです。
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龍谷大学 文学部 仏教学科 社会応用領域 教授 志賀 浄邦 先生
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仏教思想、インド哲学先生が目指すSDGs
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