「制御できない」を逆手にとる? カオスを利用した新しい暗号通信

中国神話で描かれた「渾沌」
中国の神話には、「渾沌(こんとん)」と呼ばれる神が登場します。この神は目や耳、口といった感覚器官を持たず、感覚の区別がないまま存在していました。そこで他の神が良かれと思い、渾沌の顔に7つの穴を開けて感覚の機能を与えようとしたところ、その神は壊れて亡くなってしまったのです。この逸話は、無理に秩序を与えると本来の性質が損なわれてしまうことを示しています。
実はこの考え方は、現代の物理にも通じます。物理では、不規則で予測しにくい状態を「カオス」と呼び、人為的に制御しようとすると、その特徴が失われてしまうことが知られています。
特定の条件が生み出す「カオス」
物理でいう「カオス」は、例えばレーザーの光にも現れます。レーザーは通常だと安定した光を出す装置ですが、光の一部を反射させて戻すなど特定の条件下に置くと、光の強さが時間とともに不規則に変化する「カオス現象」が起きます。カオス現象は扱いにくく、これまでは抑える対象と考えられてきました。
ところが、この予測できなさを逆に利用しようとするのがレーザーカオス暗号通信です。カオスの変化の中に情報を埋め込めば、外からは一見ランダムな信号にしか見えず、内容を読み取ることができません。いわば、カオスの中に暗号を隠すイメージです。カオスは思い通りに操作できるわけではありませんが、特定の条件をそろえることで似た性質のカオスをつくることができます。受信側で同じようなカオスを用意し、信号を差し引くことで、隠された情報だけを取り出すことができるのです。
高性能計算でも解読できない?
現代社会では、情報を安全にやり取りするために暗号通信が不可欠です。しかし現在の暗号の多くは計算方式に依存しており、将来の高性能コンピューターの登場で解読される可能性も指摘されています。カオスのような物理現象を利用した通信技術は、計算だけに頼らない新しい暗号の考え方として注目されています。「渾沌」の神のように、予測できないカオスが情報を安全に守るのです。
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