あえてバリアのある住宅を高齢者施設として使う、逆転の発想

機能的な施設ならよいのか?
かつての高齢者施設では、介護がしやすいように病院のような機能的な空間が作られてきました。高齢者は介護士などに常に見守られてはいるものの、個室と食堂を行き来するだけの生活を送ることも多かったのです。しかし、高齢者はその施設に住み、生活しているため、近年は高齢者施設をできるだけ住宅に近い環境にしようとする動きがあります。さらにそこで発想を転換して、施設を住宅に近づけるのではなく、逆に住宅を施設として利用すればいいのではないかと研究が進められています。
縁側や畳、段差や階段のある高齢者施設
実際に、もともとあった縁側や畳などを生かして住宅を改修した認知症高齢者向けグループホームが造られました。高齢者の行動を観察分析したところ、縁側では日なたぼっこをしたり、スタッフが洗濯物を畳むのを手伝ったり、和室では寝転んだりと、高齢者が多様な空間を選びながらその人らしい生活を送っている様子が見られたのです。また「高齢者には転倒予防のためにバリアフリーが望ましい」と考えられがちですが、必ずしもそうではないことがわかりました。バリアフリーにすることで身体機能が衰える事例があったのです。これまで段差や階段がある住宅で生活してきた高齢者にとっては、それが「手続き記憶(無意識に身についた記憶)」として残り、段差や階段があるほうが身体機能を維持しやすい場合があるのです。
キッズスペースのある老人ホーム
高齢者にとっての豊かな暮らしとは、「自分で生活する場所や関わる相手をいろいろ選択できて、自分らしく暮らせること」です。そのためには施設内だけにこもらず、いろいろな世代の地域の人と交流することも大切です。建築計画の段階で、老人ホームの中にキッズスペースを設けて、幅広い世代が交流している実例があります。そこでは、子どもが遊び、高齢者も生き生きとして、また地域住民も気軽に施設に遊びに来るなど、地域に開かれた高齢者施設の1つの理想像を見ることができます。
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先生情報 / 大学情報

新潟工科大学 工学部 工学科 建築都市学系 生活環境・空間デザイン研究室 准教授 黒木 宏一 先生
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建築計画学、高齢者福祉先生が目指すSDGs
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