Y染色体が消えたら人類は絶滅? 進化の不思議を解明

Y染色体が消えたら人類は絶滅? 進化の不思議を解明

Y染色体はいつか消える?

ヒトをはじめ哺乳類の性は、Y染色体上の遺伝子により決定されます。ところが、Y染色体は進化の過程で退化し、やがて消失すると考えられています。Y染色体が消えると性を決める遺伝子もなくなってしまい、男性やオスが生まれなくなるかもしれません。哺乳類は絶滅するしかないのでしょうか。

アマミトゲネズミの性を決める仕組み

実は、Y染色体を完全に失ったにもかかわらず、正常にオスが生まれる哺乳類がいます。奄美大島に生息するアマミトゲネズミです。
哺乳類にオスが生まれ、子孫を残すためには、精巣と精子が必要です。一般的な哺乳類ではY染色体上にあるSRY遺伝子が作るタンパク質が、常性染色体にあるSOX9遺伝子を活性化させ、精巣が作られます。Y染色体を持たないアマミトゲネズミの雄雌の染色体を比較した結果、SOX9遺伝子上流の「エンハンサー」と呼ばれる部分がオスにだけ重複していることが判明しました。これがSOX9を活性化させているのです。一方、精子については、もともとY染色体上にあった、精子形成に必要な遺伝子がX染色体に移動して生き残っていることがわかりました。

哺乳類の未来を解き明かす

トゲネズミのように、性染色体が退化してほかの染色体が性決定の役割を担うようになる、すなわち性染色体に進化する現象を「性染色体のターンオーバー」と呼びます。哺乳類以外の脊椎動物では頻繁に起きることが知られていますが、哺乳類でこの現象が発見されたのはトゲネズミが初めてです。
実は、ヒトでもSOX9のエンハンサーが重複している例が報告されています。このことからも、Y染色体を失っても性が決まる新しい仕組みが進化することは、一部の種だけに起きる例外ではなく、哺乳類全体に起こり得ると考えられます。それを確認するため、ゲノム編集技術を駆使してマウスで性染色体のターンオーバーを再現し、Y染色体が消えてもオスが生まれることを立証する研究が進められています。

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北海道大学 大学院理学研究院  教授 黒岩 麻里 先生

北海道大学 大学院理学研究院 教授 黒岩 麻里 先生

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生殖発生学、遺伝学、ゲノム進化学

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メッセージ

性の研究をしていると、性とは実に多様で柔軟なものだと実感します。「オスかメスか」「男か女か」といった固定的なとらえ方は、必ずしも実態を十分に表しているわけではありません。実際の性のあり方は、それほど単純ではなく、多様な姿を示しています。そして、多様であることは豊かであることでもあります。生物多様性が地球の豊かさを支えているように、ヒトの性の多様性もまた、社会の豊かさを示すものだと私は考えています。その多様性が守られ、受け入れられる社会こそが、真に豊かな社会ではないでしょうか。

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