データが語る足の速さの秘密 トップ選手は強く蹴らない?

映像と数値で動きを解き明かす
アスリートの動作を映像でとらえ、画像を解析することで、パフォーマンスのメカニズムを科学的に解き明かす学問が「スポーツバイオメカニクス」です。体の重さの中心である重心がどのように移動しているか、速度を算出したり、膝・股関節・足首といった各関節の角度や角速度(角度の変化の速さ)を数値化したりします。陸上競技だけでなく、バスケットボールのフリースローやサッカーのキック動作などが分析されています。
世界陸上が覆した、速く走るための常識
陸上の世界トップ選手が、実は「地面を強く蹴っていない」ことを知っていますか? 1991年の世界陸上競技選手権で、日本陸上競技連盟は初めてバイオメカニクス班を組織して、世界トップ選手の走りを分析しました。それまでの速い走りの常識は「膝を伸ばし、足首も伸展させて、力強く地面を蹴る」というものでした。ところが計測結果は逆で、速い選手ほど膝も足首も伸ばし切っていなかったのです。トップスプリンターは足の回転であるピッチを高めるため、関節を伸ばし切る前に脚を前へ運んでいたことが明らかになりました。最初は計測ミスを疑われたほど衝撃的な発見でしたが、後の陸上競技における指導改革の出発点となったのです。
データを言葉に変えるコーチ学
ただし、データはあくまで「結果」です。「膝を伸ばすな」と初心者にそのまま伝えると、かえって動きが崩れてしまいます。そこで重要になるのが、得られた科学的知見を、選手のレベルや個性に合わせた言葉に翻訳する「コーチ学」です。
伝えるべき本質は同じでも、相手の理解度に応じた説明に言い換えないと伝わりません。理想の動作に近づくには、独自に開発した動きの練習を反復させ、意識して繰り返した動作を自動化させます。「より大きく、より速く」という一見相反する動きの両立を、選手と感覚をすり合わせながら導いていきます。研究と現場をつなぐこの作業こそ、スポーツ指導の核心なのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
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