講義No.16350 薬学 医学

抗がん剤の副作用を防げ! 血液分析で薬の量を調節

抗がん剤の副作用を防げ! 血液分析で薬の量を調節

副作用寸前で薬を減らす

がんは、怖い病気というイメージがかつてありました。しかし近年は、医療技術や薬剤治療の進歩によって、診断後に5年間生存する確率がどんどん高まっています。例えば大腸がんの生存率は、2025年で67.2%にもなります。しかし、治療には患者に抗がん剤を投与し続けることが必要です。抗がん剤にはさまざまな副作用があります。大腸がんの患者の場合は、手足がしびれる末梢(まっしょう)神経障害になり、「抗がん剤をやめたい」と訴える人は少なくありません。現在、副作用に対する治療薬はありませんが、代わりに「副作用が出る寸前で薬を減らす」という用量調節の研究が進んでいます。

血中薬物濃度と神経障害との関連

抗がん剤の用量調節をするためにポイントとなるのが、薬の血中濃度を分析する技術です。血中濃度を分析した上で、さらにどのくらいの薬の量で末梢神経障害が出るのかを検証することが必要です。そこでマウスを使った実験が進められています。通常のマウスを針でつつくと逃げようとしますが、抗がん剤を投与したマウスは痛みを感じにくくなり、針でつついても逃げなくなります。マウスに対する薬の量と針の太さを変えながら実験を繰り返すことで、薬の濃度と神経障害との相関性がデータ化できます。そのデータを数理モデル化すると、人間にもあてはめることができます。

がん転移の仕組みに迫る

血液や体液を解析して腫瘍を発見する検査を「リキッドバイオプシー」といいます。リキッドバイオプシーによって、2010年代にはがんの部位からはがれたがん細胞は血液中にも流れていることが判明しました。それまでがん細胞は臓器のリンパ節からリンパ液を通じてほかの部位に転移すると考えられていたのです。この発見により、がんは血液を経由するという新たな転移の仕組みが明らかになりました。血液はとても多くの情報を持っています。血液を解析する研究ノウハウを生かして、薬物動態学はより幅広く医学に貢献しようとしています。

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京都薬科大学 薬学部 薬物動態学分野 教授 伊藤 由佳子 先生

京都薬科大学 薬学部 薬物動態学分野 教授 伊藤 由佳子 先生

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薬物動態学、薬学

メッセージ

薬物動態学は、薬物が体内でどのように吸収・分布・代謝・排せつされるかを研究する分野です。つまり新薬を発見するのではなく、すでにある薬の体内での効き方を調べて、一人一人に合った最適な使い方と用量を探っていく領域です。時には抗がん剤の副作用をコントロールしながら、治療を継続・完結させる役割も担っています。薬の効き方は一人一人異なり、これからは個別化した薬物治療が求められます。進化がめざましいこの領域で、私たちと一緒に新しい薬物治療をつくる側になりませんか?

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京都薬科大学では、「愛学躬行」を建学の精神とし、2024年に創立140周年を迎えました。薬の専門家として質の高い薬剤師を養成し、高度化・多様化が進み安全・安心の医療が求められる中、真に社会に貢献しうる人材を目指し、問題発見、問題解決型の教育に力を注ぎ、Science(科学)、Art(技術)、Humanity(人間性)のバランスのとれた人材育成します。そして、学術研究の推進とともに、高度の専門的能力や研究能力を有する薬剤師であるファーマシスト・サイエンティストを養成します。