医療の進歩とともに求められる「新しい解剖学」

神経を温存してもまひが起こる?
舌がんなどの口周りにできたがんは、血液やリンパの流れとともにほかの部位へと転移するおそれがあります。頸部郭清(けいぶかくせい)術は、すでにがんが転移している、またはこれから転移するかもしれない頸部のリンパ節などの組織を取り除く手術です。患者のQOLを維持するために、できるだけ重要な血管や神経は残すようにしますが、神経を温存したはずなのに、首の左右にある胸鎖乳突筋や肩の僧帽筋にまひが出てしまうことがあります。これはなぜでしょうか。
神経の走り方は人によって違う
実は神経の走り方は誰もが同じではありません。胸鎖乳突筋、僧帽筋へとつながる神経は、もととなる太い幹のような神経は1本ですが、人によっては2~3本と枝分かれをしています。日本人70体の左右の神経(計140本)を解剖したところ、最大で5本の分岐を持つ人もいました。このような神経の枝分かれには、1本が傷ついても機能を補うバイパスのような役目があるのかもしれません。
頸部の組織を取り除く際にその分岐を見逃すと、患者にまひが出かねません。そこで、研究により枝分かれすることの多い位置が特定されました。その位置の、神経の近くを走る血管をランドマーク(目印)として明示できるようになり、臨床で活用されています。
臨床との連携でアップデートする解剖学
人間の目と手で人体の正常な構造を調べる「肉眼解剖学」は、医療の基礎となる学問です。病気という異常を知るにはまず、正常な状態を知ることが大切です。
人体といえば、「長い間大きく変わっていない」「もうわかりきっているだろう」というイメージかもしれません。しかし、医療技術は日々進歩しており、CTやMRIで撮影した画像を3D構築し、医療用の特殊な眼鏡に映しながら手術ができる時代になりました。十分に研究されつくしたと思われる人体の構造でも、新しい技術、術式、薬などを切り口にすることで、また違う結果や知見が得られます。臨床と連携した新しい解剖学が求められています。
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