障がいのある子どもを持つ家族の危機的状況を回避するために
在宅療養で増える家族の負担
現在、日本では重度の障がいのある子どもの約70パーセントが、病院や施設ではなく自宅で生活するようになっています。それにともなって、自宅での介護を担う家族の負担が増えているという現状があります。
重度の障がいのある子どもは、在宅療養においても、人工呼吸器の使用や、のどを詰まらせないためのたんの吸引など、高度な医療的ケアが必要となります。それらのケアを、場合によっては母親などが一人でこなすこともあります。
在宅療養での危機的状況
こうした状況がずっと続いていくと、主な育児者に負担がかかり、冷静に考えることができなくなってしまうこともあります。これは、医療的なケアそのものの負担よりも、むしろ長く続く睡眠不足や疲労などが、精神的にまいってしまう原因となりやすいようです。このような危機的状況を、まわりの人が察知するのは難しいのですが、定期的に通っている病院の看護師の中には、意識的に保護者の言動を観察し、危機的な状況を見抜ける人もいます。
看護師に求められる異変を察知する力
このような看護師は経験が長く、ちょっとした世間話の中からも保護者の変化を気に留めます。それはある機器で測定して数値で表せるようなデータではなく、その人に対してあらかじめ持っている印象などの主観的な観察に基づくものです。また、病院での子どもの服の乱暴な脱がせ方などにも、保護者の気持ちが反映されるので、危機的状況を見抜く一助となります。こうした経験に裏打ちされた看護師の優れた観察眼が危機的状況を察知し、状況を改善するための糸口になるのです。
在宅療養を行う保護者の心の内はブラックボックスのようなもので、外からうかがい知ることが難しいだけでなく、強引に踏みこもうとすると心を閉ざされてしまう恐れがあります。看護師には、タイミングをはかりつつ、何気ない会話の中から、心の内を解き明かしていくコミュニケーション能力も求められているのです。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 健康福祉学部 看護学科 教授 山本 美智代 先生
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