失敗から学ぶ経営戦略

セメント業界の現状打破
セメントは、コンクリートに加工されて建築資材や道路などに用いられる、社会インフラに欠かせない材料です。一方で、セメントの価格は1トン当たり1万円ほどと安価な割に物流コストがかさむため、利益が少ない商品です。さらにセメント自体は商品としての差別化が難しく、セメント会社同士の競争の多くは「値下げ」によるものでした。そのため1990年代に15社ほどあった日本のセメント会社は、利益を出せない状態に陥っていました。
1993年、状況を打破するために行われたのが、業界の大手企業と中堅企業の間で行われた合併です。合併で誕生した業界1位の規模となる新会社が、合理化を進めて生産量を減らし、需要と供給のバランスを整理することで業界全体の価格競争の沈静化が期待されました。ところが翌年には価格競争がさらに激化して、全社が赤字になってしまったのです。
日本的経営がマイナスに?
この原因の一つは新会社の「日本的経営」にある、と指摘する研究があります。セメント価格を維持するためには業界のリーダー企業が率先して生産量を減らし、販売数量ではなく価格維持重視の姿勢を見せるすことが必要でした。しかし、終身雇用などを特徴とする日本型経営の考えが社員の解雇を伴う工場の閉鎖を妨げたのです。結果的に生産量を維持せざるを得なくなった新会社の状況を見た競合各社には、「合理化で新会社の経営体質が強くなる前に先手を打たねばならない」という競争心理が働き、さらなる値下げにつながりました。
どうすればよかったのか?
ここでは、新会社が日本型経営から脱却すべきだったことに加えて、業界全体が「経営の多角化」を進めるべきだったと言えるでしょう。セメント以外の事業を自社の強みに育てていれば、新会社は社員を解雇することなくその事業へ配置転換できたでしょうし、競合各社もセメントの値下げに依存しない事業が展開できていたはずです。
このような事例の研究は、成熟産業や日本的経営を続ける企業の経営戦略立案や実践に役立てられています。
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