愛と国益、国際援助と国際政治との複雑な関係

日本の国際援助
困っている人に手を差し伸べる、それを国同士で行うのが「国際援助」です。日本は、東南アジアを中心に道路やビル建設、港湾整備などで高い技術力を提供しています。この援助には日本の税金が使われるため、長期的に見て日本に何らかの恩恵があること、つまり国益までを考えて援助を行っています。例えば、かなり昔の話ですが、日本が援助を行うあるカリブ海の国は、自国では鯨を捕っていないにもかかわらず日本の捕鯨活動に賛成しました。これは日本の国益に沿った投票行動でした。
政治に踊らされる援助
国際援助を国益と結びつけて考えるのは、日本だけではありません。中国は、道路やビル建設において日本よりも早くかつ安価でつくるため、アジア以外の地域にも援助活動の範囲をどんどん広げています。一方日本は、質が良くても高額でしかも時間がかかるため敬遠されがちです。そのため、最近は日本側から積極的に各国へ援助の提案を行うようになりました。
また、援助の形が変化しています。これまで日本はODA(政府開発援助)による協力が中心でしたが、近年は巡視船の建造といった安全保障にまつわるODAとは別の形の援助が増えてきました。背景には、中国の海洋進出があります。
こうした、国の事情が国際援助に反映する状態は、米国も同じです。米国では最近、政府の方針に沿わない団体への資金が停止または減額され、国際援助団体の中にも機能不全になった団体が出ています。援助活動が、政治に振り回されているのです。
忘れてはならない、人間の安全保障
国際援助の基本は人類愛といえます。現場ではそうした志のある人が活躍していますが、一方で国際援助が大きな国際政治の道具の一つにされています。忘れてはならない言葉に、「人間の安全保障」があります。一人一人の人間が尊厳ある生活を送り、生命を全うするために、貧困や紛争などの欠乏や恐怖から守られるべきであるという考えです。国益も大切ですが、国際援助のベースにあるこの考えを忘れてはならないでしょう。
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