コンピュータが導く建築構造のデザイン

力学を追究した形
どんな建物も重力に逆らうことはできません。そのため、自由に形を作るのは実はとても難しいのです。そんな中でも人類は昔から、ドームやアーチのように、重力の流れをうまく利用して、工夫を凝らした建築を生み出してきました。日本での代表例は、1964年の東京オリンピックのために建てられた代々木の国立競技場です。屋根がケーブルでつられたこの建物は、力学的な合理性と素晴らしいデザインを併せ持っています。本来なら滑らかな曲面になるはずの屋根を、あえてシャープに引き締めることで、美しさと機能を両立させたのです。こうした建築を支えたのは、当時の最先端の構造理論と、熟練した施工職人たちの技術でした。
コンピュータによる構造計算
昔はコンピュータがなかったため、計算できる形は左右対称や円形など、単純なものに限られていました。しかし現在は、コンピュータによって複雑な形も計算できるようになり、デザインの自由度はぐんと広がっています。とはいえ、実際に建物が成立するためには、物理のルールに従わなければいけません。そこで役立つのが、「最適化問題」と呼ばれる数学的な考え方です。これにより、デザインアイディアを力の流れに合った無理のない形に導きます。こうした研究は「形態創生学」と呼ばれ、建築に新しい発想をもたらしています。
建築とAIがつくる未来
これからの建築は、AIやコンピュータを使った自動設計がさらに発展していくと考えられています。現在の建設業界は、少子高齢化の影響で設計者や職人の数が減少しており、業務の効率化が求められているからです。そのため、将来の設計者は、自分の手でデザインを描くというより、コンピュータに指示を出して設計を進めるディレクターのような役割に変わっていくかもしれません。その時に必要になるのが「数理データサイエンス」などの新しい知識です。数学やプログラミングの力を使って、デザインと合理性を両立させる、それが未来の建築のあり方かもしれません。
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