働くことを喜びに データから読み解く高齢化社会の未来

30年続く日本の消費低迷の原因は?
日本の家計調査のデータを分析すると、1991年には1世帯あたり月約35万円だった消費支出が、2023年には約27万8千円にまで減少しています。これは物価変動を考慮した上での実質的な支出であり、消費の量が減っていることを意味します。消費が減り続ける主な原因の一つが将来への不安です。民間の調査では、8割以上の人が「年金だけでは老後が不安」と答えています。そのため、お金を使わず貯蓄に回すようになり、日本経済の長期停滞の一因となったと考えられます。
「働く」が高齢者を幸せに?
2023年の厚生労働省の調査では、60歳を超えても働きたい人のうち約75%の人が「生活の糧を得るため」と答えています。公的年金の不足分を就業で補おうとしているのです。従来の経済学では、労働は所得をもたらす一方で、生活の満足度を下げるマイナスの要素としてとらえてきました。その視点からは、この人たちは全員「働きたくないけれど働かざるを得ない」と考えていることになります。ところが、厚生年金を受け取ることができる65歳以降も「年金額が減るか否かに関係なく働き続けたい」と回答している人も一定数存在します。このことは「労働が高齢者の幸福感を高め、社会とのつながりを保つ重要な役割を果たしている」という新たな労働観の必要性を示しています。
データを基により良い未来をつくる%
このように、経済現象に関するさまざまなデータを分析して、要因を調べたり、政策の影響を検証したりするのが、経済学の「実証分析」です。例えば、2024年の年金財政検証では、基礎年金保険料の納付期間を5年延長して64歳までにすると、年金の所得代替率が50%から57%に向上することがわかりました。高齢者が健康であれば、働き続けることで年金制度の持続可能性が高まり、高齢者自身の幸福感も向上するという一石二鳥の効果が期待できます。こういった検証結果に基づいて、政策提言を行うことも経済学者の役割の一つなのです。
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