カニが教えてくれる、「協力」の経済学

カニが教えてくれる、「協力」の経済学

「みんなのもの」はなぜ壊れるのか

海の資源は、特定の誰かのものではなく、みんなで共有するものです。ところが、個人がそれぞれ「合理的」に行動すると枯渇してしまう場合があります。例えば、卵を抱えたメスを守れば、将来生まれてくる数が増えて、資源は長く保たれます。しかし、卵を持つメスは高く売れるため、短期的には獲った方が得であり、多くの人がそう考えて競争すれば、資源は減り、結果として地域全体の収入も下がってしまいます。

「ただ乗り」を防ぐには?

資源保全には、漁獲時期の設定や特定種類の漁獲禁止などの規制を行う方法があります。しかし、国によっては、法律の執行や監視、違反者への処罰が困難な場合があります。そこで、漁民グループによる協力体制(ソーシャルキャピタル)の活用が重要になります。漁民同士でルールを決めて、相互監視を行う仕組みを機能させるのです。ただし海はつながっており、一つの村で協力が成立しても、外部からの「ただ乗り」によって努力が無駄になる可能性があります。これを防ぐためには、知らない人同士の協力を実現する必要があります。

「良い行い」のラベルが信頼をつなぐ

そこで、タイの沿岸漁村を舞台にフィールド実験が行われました。このエリアには、「クラブバンク」と呼ばれる活動があり、卵を抱えたメスガニをふ化まで施設で保護してから海へ戻すというルールを実行するグループが国に公認されています。このグループのメンバーであること、すなわち「持続可能な漁業を行っている」というラベルが、知らない人同士の協力を促進するかを検証するために、「囚人のジレンマ」を応用し、実際のお金を使ったフィールド実験が行われたのです。
結果として、自分はクラブバンクに属していなくても、相手がそのメンバーだとわかるとルールに協力しやすくなることが明らかになりました。「良い行い」が橋渡しになり得るというこの知見は、気候変動への国際協力や地域コミュニティの形成など、幅広い課題への応用が期待されています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

京都大学 農学部 食料・環境経済学科 森林経済政策学 准教授 三谷 羊平 先生

京都大学 農学部 食料・環境経済学科 森林経済政策学 准教授 三谷 羊平 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

経済学、実験経済学、環境経済学

メッセージ

大学は手取り足取り教えてもらうような場所ではありません。「これを知りたい」「この問題を解決したい」という強い探究心や意欲を持った人にこそ、ぜひ来てほしいです。研究の世界は、やればやるほど新たな疑問が生まれ、深くも広くも果てしなく続いていきます。また、経済学や数学には国境がなく、海外の研究者とも共通言語で対話でき、世界がどんどん広がっていきます。大学にはたくさんの「扉」があります。何かを掘り下げてみたいという気持ちがあれば、きっと面白いものが見つかるはずです。

京都大学に関心を持ったあなたは

京都大学は、創立以来築いてきた自由の学風を継承し、発展させつつ、多元的な課題の解決に挑戦し、地球社会の調和ある共存に貢献するため、自由と調和を基礎にして基本理念を定めています。研究面では、研究の自由と自主を基礎に、高い倫理性を備えた研究活動により、世界的に卓越した知の創造を行います。教育面では、多様かつ調和のとれた教育体系のもと、対話を根幹として自学自習を促し、教養が豊かで人間性が高く責任を重んじ、地球社会の調和ある共存に寄与する、優れた研究者と高度の専門能力をもつ人材を育成します。