生命倫理を考えるために必要な哲学

生命倫理という視点で考える
「出生前診断」は、妊娠中、胎児に異常があるとわかった場合、それが産まないことの理由として考えられることがあります。また、ALS患者など、苦しんでいる人の「尊厳死(安楽死)」を認めるかどうかは、国によっても違いがあります。あるいは遺伝子の「ゲノム編集」での国際的な倫理ルールの必要性が指摘されています。生命に関わるこのような難題を検討する際に、当事者の視点からでない、メディアなどの情報をうのみにしがちではないでしょうか。医学の進歩に伴う、倫理的な課題を「生命倫理」と呼びます。当事者から聴き、ともに考えることは、その行為を倫理的に考え、かつ自分ごととして判断をする助けになります。
生きるとは? 幸せとは?
そうした課題には、白か黒かをはっきりさせるような正解がありません。しかし、将来自分や身近な人の人生に関わってくる可能性があります。そのときには、他人ごとではなく、自分ごととして命の尊厳について判断をすることになります。
倫理は、古代ギリシャから時代とともに「よく生きる」ことを問い続けてきた、哲学の思想にもとづいています。そこには、ソクラテスやプラトンをはじめとする現代までの思想の蓄積があります。アリストテレスは、「人生の目的は幸福になること」だと言いました。「幸福とは? よく生きるとは?」といった問いに、古代ギリシャも現代の人たちも、延々と向き合っています。
市民としてのリテラシーを高める
科学技術や医学がどんなに進んでも、それによって人間の抱える問題がすべて解決できて幸せになれるというのは幻想に過ぎません。尊厳死の例をとると、する・しない場合のどちらがその人にとって幸せなのか、患者に直接会って対話をしたり、思索を積み重ねたりすることで、三人称だった問題が、二人称の問題となり得ます。臨床哲学は、哲学対話を臨床で実践する手法です。生命倫理の課題に私たち一人一人が「市民」としての判断ができるようにするには、哲学的思考が必要とされているのです。
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立正大学文学部 哲学科 教授田坂 さつき 先生
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古代ギリシア哲学・倫理、臨床哲学先生が目指すSDGs
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