働かせ放題? 教師の現実と「教育を受ける権利」

働かせ放題? 教師の現実と「教育を受ける権利」

アメリカでは空のリュックで登校?

子どもにとって、教育を受けることは大切な「権利」です。経済的に厳しい家庭の子や障害のある子、外国にルーツを持つ子など、すべての子どもが平等に学べるように保障されなければなりません。しかし、日本の教育予算は先進国の中でも特に低く、教師や保護者に大きな負担がかかっています。例えば、ニューヨークでは予算をしっかり用意しているため、子どもたちは水筒とおやつを入れた、ほぼ空のリュックで登校します。文房具や教科書は学校で保管され、重いランドセルを背負う必要がありません。給食や朝食も無料で、家庭に負担をかけない仕組みが整っています。

残業代が出ない教師の不思議

日本の公立学校の教師には、残業代が支払われていません。これは「給特法」という法律が理由で、月給の4%を教職調整額として支給する代わりに、残業代を出さない仕組みです。この4%は週に2~3時間の残業を想定したものにすぎません。実際には、毎日のように深夜まで働く教師も多く、家に仕事を持ち帰り、休日も休めないことがあります。そのため「働かせ放題法」と呼ばれることもあります。こうした状態では、教師自身が健康に働けず、子どもたちに良い教育をすることも難しくなります。本当に良い授業を行うためには、教師が安心して働ける環境を整えることが欠かせません。教育の質は、教師の働き方と深くつながっているのです。

裁判で教育制度を変える

教育の現場を良くするには、教師の努力だけでなく、法律や制度の見直しが必要なことから、教育制度を法的な視点で研究し、課題解決に挑む取り組みが続けられています。教師の時間外労働について、埼玉県では裁判で初めて「労働時間」と認められ、香川県では時間外労働に損害賠償が認められる判決も出ました。こうした動きは着々と進められており、子どもたちが安心して学べる環境をつくる大切な一歩となっています。教育を受ける権利を守る挑戦は、これからも続きます。

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大阪大学 人間科学部  准教授 高橋 哲 先生

大阪大学 人間科学部 准教授 高橋 哲 先生

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教育法学、教育行政学、教育制度学

メッセージ

学校生活で「これっておかしくない?」と感じたことはありませんか。そうした違和感こそが学びや研究の出発点です。ルールに従うだけでなく、疑問を持つことの大切さを忘れないでください。私自身、教育実習で教師の厳しい労働環境を目の当たりにし、「なぜ教師がこんなに苦しまなければならないのか」と強い違和感を抱き、制度を研究する道に進みました。あなたの持った違和感は、社会を変えるヒントになります。その感覚を学びの原動力にして、受験やその後の大学での学びに挑戦してみてください。

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自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。