電子を知れば物質がわかる! あらゆる分野に応用できる量子力学

量子の世界を知るための方程式
物体の運動はニュートンの運動方程式で知ることができます。ところが、原子や電子といった「量子」が主役となる極小の世界では、運動方程式が通用しません。粒子と波の性質を併せ持つ量子の状態を説明するのは、量子力学の運動方程式ともいえる「シュレーディンガー方程式」です。
すべての物質は原子核と電子からできており、原子同士の結合には電子が関わっています。つまりどんな物質も、シュレーディンガー方程式を解いて電子の挙動がわかれば、その性質も明らかになります。つまり、量子力学はさまざまな分野の問題にアプローチすることが可能です。
ドラッグデリバリーシステムへの応用
その一例が、薬をカプセル状の物質に閉じ込めて患部まで運び、副作用を極力減らそうというドラッグデリバリーシステムです。カプセルによく使われるのはリン脂質二重膜のリポソームですが、リポソームは分子間の結合が弱いため患部に届く前に壊れやすいという欠点があります。そこで開発されたのが、リポソームの表面をセラミックの層にして壊れにくくしたセラソームです。しかしセラソームは逆に、患部に到達しても壊れにくいという課題があります。ここでシュレーディンガー方程式の登場です。セラソーム表面の電子のふるまいを調べることで化学結合の状態を知り、打開策へとつなげます。
量子力学はあらゆる分野に
もっとも、いくつもの粒子が関与するセラソーム表面のシュレーディンガー方程式は非常に複雑で、解くのは容易ではありません。そこで、単純な形にモデル化した上で、対応するシュレディンガー方程式を大型計算機で解いていきます。その結果、セラソーム表面の共有結合には反結合性軌道と呼ばれる不安定な軌道があることがわかりました。この軌道に何らかの方法で電子を入れられれば、結合が壊れて薬を放出できるはずです。
ほかにも、優れた半導体材料である窒化ガリウムの物性や、放射性物質汚染土壌の除染メカニズム解明など、量子力学の観点からさまざまな分野の研究が行われています。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
