見えない植物の栄養元素の流れを可視化する

見えない植物の栄養元素の流れを可視化する

リンはなくてはならない大切な資源

植物が生きるために欠かせない栄養元素の一つに「リン」があります。リンは、DNAや細胞膜の材料になり、光合成を行う上でも重要な元素です。農業ではリンを肥料として使いますが、日本はその多くを海外からの輸入に頼っている上に、その相手は地政学上のリスクの大きい地域が多く、安定的な供給が続くかが心配されています。だからこそ、リンを無駄なく、効率よく使う方法が求められています。植物がどれだけリンを必要としているのかがわかれば、余分な肥料を減らすことができ、環境にやさしい持続可能な農業にもつながるのです。

見えない栄養元素の動きを見えるように

植物がリンの取り込みや体内輸送を制御する仕組みはまだ分からないことがあります。そこで、植物の中の元素の動きを可視化する方法が開発されています。標識したリンを使い、植物の体内での移動を光情報として、高感度カメラで映像として記録する方法です。これにより大豆では、リンが葉の葉脈や種の部分に集まる様子が画像で確認できました。さらに実験を進めていくと、根の先端に強いシグナルがあることが確認できました。これを高精度の顕微鏡で詳しく観察した結果、根の先端がリンの取り込みに重要な役割を果たしていることが突き止められたのです。

肥料の未来を変える研究

今後は、植物がリンの過不足を感知する仕組みについての、より詳細な調査が期待されています。元素の動きのデータを読み解きながら、植物の根のどこで、どんな遺伝子が反応しているのかを細胞レベルで明らかにしていくのです。これによって、植物が必要とするリンの量を正確に把握し、過不足なく肥料を与える方法が見えてきます。また、研究が進めば、共生する微生物からどうリンを受け取るかといった植物の知恵も明らかになるでしょう。農業の効率化だけでなく、環境負荷の低減にもつながるこの研究は、未来の地球を守るとても大切なテーマなのです。

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先生情報 / 大学情報

名古屋大学 高等研究院  准教授 菅野 里美 先生

名古屋大学 高等研究院 准教授 菅野 里美 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

植物栄養学、土壌学、農業環境工学

先生が目指すSDGs

メッセージ

進路や将来について考えるとき、「一度決めたら変えてはいけない」と思っていませんか。やってみて「違うかも」と感じたら、方向を変えることは悪いことではありません。私自身も、植物の研究に興味がありながらも、大学に入ってから少しずつ軌道修正して今の研究にたどり着きました。大事なのは、面白そうと思った気持ちを大切にしながら、自分の手で進む道をつくっていくことです。変化を恐れず、自分の「好き」を信じてください。きっとそれが、未来のあなたをつくっていきます。

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名古屋大学は、研究と教育の創造的な活動を通じて、豊かな文化の構築と科学・技術の発展に貢献してきました。「創造的な研究によって真理を探究」することをめざします。また名古屋大学は、「勇気ある知識人」を育てることを理念としています。基礎技術を「ものづくり」に結実させ、そのための仕組みや制度である「ことづくり」を構想し、数々の世界的な学術と産業を生む「ひとづくり」に努める風土のもと、既存の権威にとらわれない自由・闊達で国際性に富んだ学風を特色としています。この学風の上に、未来を切り拓く人を育てます。